「また、魔が差した?」

 赤井はこんな性格だったろうか。一緒に仕事をしている時は冷静沈着で隙のない男なのに、仕事から外れるとどこか抜けているというか少しポヤッとした天然な一面が現れる。
 前と同じように赤井の車で送ってもらって、家に着く前にまたキスをされてしまった。しかも今回、赤井の左手は私の頭の後ろに回した手を離そうとしない。

「ああ」
「えっと、」

 反応に困っている私に構わずまたキスをされてしまう。舌で唇をなぞられてしまって、思わず口を開けてしまう。その隙を見逃さないといわんばかりに、赤井の舌が私の口腔内とへと侵入してきた。素直にされるがままにしているとしばらくして赤井はアッサリと私から離れていく。……わからない。

「抱きたいなら抱きたいって言ってよ」
「……上杉は抱かれたいのか?」

 赤井のあっけらかんとした表情と声色に更に私は困惑してしまう。私にそういう聞き方をするのもおかしな話だろうと内心思ったが口にするのはよそう。そういった所で赤井の表情は何も変わらないと思うし。

「ここまでして続きをしない人を珍しいなって思っただけ」

 「それじゃあ、送ってくれてありがと」と車のドアを開けようとした瞬間に腕を掴まれて引き止められてしまった。本当にこの男の考えていることが全然わからない。

「気でも変わった?」
「ああ」

 …………。この人を相手に考えていても仕方がないと考える事を諦めて、駐車場の場所を教えようとすれば、車は道路に出て走り始めてしまった。


「別に家で良かったのに」
「家に上がり込むのはどうかと思ったのでな」

 同僚に手を出すのはいいのなと言いたくなったが、私に対しても盛大なブーメランなので言葉を飲み込む。
 お互いシャワーを浴びて、私はすでに赤井に押し倒されてる状態なのだが、赤井は私をジッと見つめたまま動こうとしないのだ。

「どうしたの? しないの?」
「これは俺の推察なんだが」

 ニット帽を取った姿や、筋肉質だけどゴツゴツし過ぎていないしなやかな体つきをボーッと見つめていれば赤井は続けて「あまり好きではないだろ、セックス」と続けた。突然の言葉に思わず赤井の瞳と目が合ってしまう。赤井は目をそらさずに私を真っ直ぐと見ている。

「……どうして、わかったの?」

 軽く受け流すつもりだったのに、余りにも図星すぎてそのまま声に出してしまった。赤井は私の上から退くと横に寝転がる。

「今までういを抱いてきた奴らがわからんな。手が震えてる」
「そ、なんだ」

 自分でも気がついていなかった指摘にふと自分の手を確かめる。確かにセックスは嫌いなのだ。痛いだけの行為だけど、求められること自体は嬉しくて。馬鹿だ、とは思っていたけれども言い当てられる、しかも手が震えていると体に影響が出ているなんて本当に思いもしていなかったのだ。

「自分で気がついてないほどのストレスだったんだろう」

 また自分の手を見つめる。身体は恐怖から逃れられたと思ったのか震えは止まっていた。隣を見れば同僚は何事も無かったかの様に背を向け寝始めているようだ。私も彼に背を向け目を瞑った。
 何もされていないけど、何かをしてくれたような。その日私はいつぶりかの安眠を得た気がした。


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