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「は?」
シズオは想定外の発言にただ口をあけることしか出来ない。
「血がほしいんだよ」
少女は聞こえなかったのかと判断したのか、もう一度ゆっくりはっきり同じ発言をした。
シズオはしばらく硬直していたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「お前もしかして……吸血鬼か?」
「どうしてそうなるの」
先程の発言だけでは情報が少なすぎるので、シズオが勘違いをしていてもおかしくはない。
「噂とかで聞いてるはずなんだけどな」
少女は予定とちがうというようなことをつぶやき、腕を組んでいる。
「俺、今日という今日まで噂とかまったく知らなかったんだ」
何故か頭を抱えている少女にフォローしてしまった。
「それもそれでどうかと思う」
だってこの城どころか道に人の気配すら感じないのは自分のことがきっと噂されているに違いない。尾ひれがついていたとしても。少女はそう喚いたが、シズオは本当に何も知らなかったのだから、そう責められても困る。
「この情報を提供したら、金くれる?」
「んなわけねーだろ」
少女の容姿から似ても似つかない表現が出てきてシズオは驚いた。
「ちぇっ」
こいつ舌打ちまでしやがる。
シズオは只でさえキレやすいのだ。そろそろ限界が近い。
「しょーがないな。今回だけ出血大サービス。次からは金とるよ」
少女はピン、と人差し指を立てた。
「ただし一つだけ条件がある」
「なんだよ」
シズオは最早疲れを隠し切れなくなり、なあなあに返事を済ます。
「名前教えて」
「……シズオ」
「ふーん」
疲れる。非常に疲れる。
シズオは少女の話を聞きながら、絶えず襲ってくる疲労感と闘っていた。

少女の名はイザヤと言うらしい。
かれこれ云百年も生きているそうだ。余りに長い間生きているので本当の年齢はわからない。
何故彼女がこうして生きているのかは、噂とそう違いはなかった。
よく何百年も真実が語り継がれて来たものだとシズオは感心した。
ただ、彼女が『死』を手に入れるには、生きている人間の血を飲まなければならないらしい。
だからシズオが入ってきたとき、服を切り裂いてナイフを突き立てたのだ。
しかし普通の人間なら大量出血で死に至る位の傷をつけるつもりで切りつけたのだが、まさかの服しか切れなかったので、化け物だと思ったらしい。
我ながら確かに普通の体ではないとは思っているが、随分と失礼な話だ。
しかし、この話を聞くと、もしシズオ以外の人間がここに来たら(因みに、元々依頼されていたセルティはデュラハンという妖精であり、人間ではない)、二度と朝日は拝めなかったかもしれない。
いくらセルティは死なないからとは言え、結局自分が来ることになって正解であったとシズオは思う。
シンラの人選は正しかったのだ。

話終えると、イザヤはガックリと項垂れ、壁に寄りかかってズルズルと音を立てて座り込んだ。
余りの落胆ぶりに、少しだけどうにかしてあげたい気持ちが芽生えた。少しだけだが。
しかし自分では何も手助け出来ない。
「俺は帰っていいのか」
ここにいてもイザヤを『普通』の人間に出来ないので、いる意味がない。そっとした方がいいのかもしれない。
「……シズちゃんはここにいなよ」
少し間があって返事が返ってきた。




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