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昔昔、この城にはとても綺麗なお姫様が住んでいました。
しかしそのお姫様は大変我が儘でこの世の宝を全てを手に入れるだけでは満足せず、禁忌に手をだし、ついには悪魔と契約してしまいました。
お姫様は自分の家族と引き換えに永遠の命を手に入れたのです。
しかし時が経ち、ただ生きているのがつまらなくなり、契約を破棄しようとしましたが、成立した以上、白紙にすることは出来ませんでした。
契約を破棄するには自分にかかった呪いを解かなければなりません。それには人の手が必要です。
しかし既にお城は荒れ果て、人一人近付きません。
だからお姫様は静かに待っているのです。
自分は呪いで城から出られないので誰かが城に入ってきてくれることを。


「くっだらねぇ」
シズオはその話を聞いたあとそう吐き捨てた。
「まあそう言わずに」
シンラはまあまあとシズオを宥めた。
ここはイケブクロと呼ばれるトウキョウと言う小国の中のとある街。
朝と夜の雰囲気がガラリと変わるここら辺ではかなり賑やかな街である。
シズオはそのイケブクロの中では中々の有名人で、先程おとぎ話を聞かせていたシンラとは幼なじみである。
シンラにはセルティと言う恋人がおり、そのセルティはイケブクロを住み良くするために裏側でよく仕事の依頼を受けている。
そんなセルティにとある依頼が持ち込まれたが、内容を聞いたシンラが猛反対し、幼なじみで街で一番力持ちのシズオに頼もうと言うことになり、現在に至る。

「で俺はシンジュクにあるその曰く付きの城に出掛けて真相を確かめてこいと」
「ご名答」
シンラはパチパチと拍手するが、残念ながらシズオは全く嬉しくない。
シンジュクとはイケブクロの隣にある街のことで、イケブクロと並ぶくらい賑やかな街である。
イケブクロからシンジュクに行く一番近い道には先程シンラが話していた曰く付きの城がそびえ立っており、見かけだけでも大変グロテスクな城なのにそのおとぎ話のお陰で誰もそこを近寄ろうとせず、回り道をしてシンジュクまで行っている。
このままでは不便極まりないと、誰かその城に乗り込む勇者は現れないかと、あの手この手を尽くしてシズオに白羽の矢が立ったのだ。

「俺が戻ってこなかったらどうするんだよ」
シンラはにっこりと笑った。
「大丈夫。お墓はちゃんと作っておくから」
そういう意味じゃねぇ!
シズオは必死に堪忍袋の緒が切れないように堪えている。
シンラはそれを知ってか知らずか笑顔のままだ。
「はい。一週間分の食料とその他諸々」
はい、と渡された荷物はずっしりとシズオの腕にのしかかる。
「おい!一週間なんて聞いてないぞ!」
てっきり行って帰る日帰りかと思ってこの依頼を渋々引き受けたのに畜生!
「まあそう怒るなって。シズオなら大丈夫だから多分」
多分何が大丈夫なのか聞いてみたかったが、シズオは波を荒立てたくないので聞き流すことにした。
「あ。トムさんから伝言」
シンラはわざとらしく手を叩くと、シズオに近づき、耳打ちする。
「『シズオなら出来る』だって」
「トムさんがそう言うなら」
シズオは渋々鞄を肩にかけ、魔の道へ足を踏み入れた。
シズオを見送ったシンラは一言、ボソリと呟いた。
「おとぎ話には実は続きがあるんだけどね」
まあいいかとシンラは愛するセルティの元へと足を進めるのであった。





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