一度でいいから囁いて


「ねぇシズちゃん。この状況わかってるよね」
臨也は薄気味悪い笑いを浮かべながら、静雄に話しかける。

気が付いたときには遅かった。
一瞬の隙を突かれて睡眠薬のようなものを嗅がされ、意識がはっきりしてきたと思ったらこの様である。
余程強力のものだったらしく、意識はあっても体は思うように動かない。
静雄は見たことがない倉庫の中の柱に縛り付けられている。
静雄は臨也を睨むことしか出来ない。
「本当は媚薬でも良かったんだけど、それは余りにも可哀想かなと思って」
今度はそれにしてみようかな、と呟く臨也に静雄は今だかつてない殺意を覚えた。
「お前は何が目的なんだ」
口を動かしながらも縄を解こうとするが如何せん上手くいかない。
臨也は目を丸くして静雄を見た。
「目的なんかないよ。ただシズちゃんを独り占めしたかっただけ」
それが目的と言うんだろう。この変態。
取り敢えずまだ襲う気はないらしい臨也にほっとする。
だが油断は禁物。しかし何も出来ない今の自分に舌打ちをする。
どうしてこういう時に限って馬鹿力が使えないんだ。
「取り敢えずこれを解け」
静雄は僅かに体を動かして縄を示す。
「やだよ。ほどいたらシズちゃん逃げるでしょ」
だからこのまま。臨也は笑顔を貼り付けたままだ。
お前は子供か!
静雄は叫びたかったが、まだそこまで舌を動かせない。

「逃げねーよ」
「でもやだ」
このままでは堂々巡りだ。静雄は焦り始めた。
どのくらい時間が経ったのか最早わからなくなっていた。
「じゃあ一つだけ条件がある」
臨也はピンと閃いたらしく指を上向きに立てた。
「なんだ」
「一度でいいから好きだって言って欲しい」
は。静雄はぽかんと口を開けた。
何故こいつはこんなことを言い出すのだ。もっと無理難題を押し付けられると思っていた静雄は逆に拍子抜けしてしまった。
「そんなのでいいのか」
「いい」
だってそうでもしないと好きだなんて言ってくれないだろうし。臨也は少し俯いて呟いた。先程の笑顔は跡形もない。
静雄は一瞬迷った。
言うのは簡単だ。たった一言いうだけでこの状態から抜け出せるのだ。しかし臨也は本気だ。
いつもいつも好きだ好きだと冗談めいて言っていたが、あれは全部本気だったのだ。今更だが気付いてしまった。
本気で向かってきた相手になあなあに返すのは静雄のプライドが許さない。
「臨也。俺は臨也が嫌いではない」
臨也は驚いた。
「シズちゃん」
「本気なんだろ」
いつもの殺意が込められた視線ではなく、いつもの好青年であるときの静雄の視線に臨也は戸惑いを覚えた。
「何言って、」
「本気なら俺も本気で返事をしなければいけねーからな」
好きだと一言言いさえすれば良いのにこの男は自分の安全より臨也の気持ちを優先した。
「確かに会うと腹立たしいしウザいが別に嫌いではない」
好きでもなければ嫌いでもない。そう繰り返す静雄に臨也は胸が苦しくなった。
そっと静雄を柱ごと抱き締めた。
「、おい」
「今だけだから」
静雄は慌てるが、臨也はそれを制して静雄の後ろ、縄の結び目に手を伸ばした。
「シズちゃん」
「何だよ」
「バカだよね」
シズちゃんて本当に馬鹿。そう呟きながら縄をほどく臨也に静雄はなんとも言えない感情を抱き始めていた。








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