戯れの時は遥か遠く


「シズちゃんて本当つれないよね」
臨也は笑いながらナイフを振りかざす。
時は過ぎ、夜の訪れを告げる赤い太陽の光に反射し、それは鈍いオレンジ色に輝く。

静雄は僅かに息を吐いて、もう何個目かわからない自動販売機を彼に目掛けて投げつける。

「誰のせいで今こうなってるんだと思ってるんだ」
「シズちゃんのせい?」
只でさえキレやすい静雄の気に障ることばかり呟く臨也に静雄は相手の思うつぼだと思いつつも物に当たらざるを得ない。

「お前は何故いつも池袋に現れる」
俺の前から消えろと言っただろう!
そう叫ぶと同時に握っていた電柱がミシリと嫌な音をたてる。
「そんなのシズちゃんに会いたいからに決まってんじゃん」
さも当然であるかのように発せられたこの言葉を静雄は幾度となく聞いてきたが、一度たりとも真面目に受け取ったことはない。
この男は油断ならない。冗談で言っているようで本気だったり本気なようで冗談だったりすることがあるのだ。
最も先程の台詞が本気だとしたらそれこそ色々な意味で油断ならない。静雄貞操の危機である。
「その台詞は聞きあきた」
もっとましな言い訳を考えるんだな。
そう言い放つと静雄はまだ生き残っている自動販売機はないか辺りに目をやった。
「信じてくれないんだね」
臨也はわざとらしい落ち込み方をして静雄の様子を伺う。
「信じるほうがどうかしている」

たった一つまだ無事な自動販売機を発見して静雄の目は僅かに輝いた。
「じゃあ今すぐ信じざるを得ないようにしてあげる」
そう言うが否や臨也は素早く静雄の服をナイフで切り、中から現れた締まった体にナイフを突き立てる。そして己の唇を彼のそれに押し当てた。
静雄は驚いて固まっていたが、臨也が唇を離すと、わなわなと震えて最後の自動販売機に手をかけた。

「臨也ぁ!今日と言う今日は許さねぇ!」
自動販売機が華麗に宙を舞いながら確実に自分の方に向かってくるそれに臨也は笑みを隠すことが出来ないでいた。
先程のキスは静雄なら避けようと思えば避けれた。しかし結果は自分にされるがままで、照れ隠しかのように自動販売機が飛んでくる始末。
「シズちゃんって本当可愛いよね」
冗談とも本気ともとれない言葉を呟いて臨也は自動販売機の巻き添えを食らうのであった。







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