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「お前何言ってるんだよ」
何百年生きてようが見かけや精神年齢が少女であるイザヤに「お前」呼ばわりしてしまったことにシズオは多少の罪悪感を抱いた。
「何百年も一人で生きてきたんだ。久しぶりの生身の人間と出会えた日には、もっと一緒にいたいと思うのは普通の事だよ」
確かに、とシズオは頷いた。
少女のまま、ずっと何百年も生きながら得ていたのだ。生け贄に彼女の家族を差し出したため、半分は自業自得だが、例え彼女の家族が寿命を全うしたとしても、もう長い間一人で居ざるを得なかっただろう。
「そんなに死にたいなら何で不老不死なんか手に入れたかったんだ」
そのイザヤの台詞を聞いてから、ずっと疑問として渦巻いていた物をシズオは吐き出す。
「、だから」
「え?」
冒頭の肝心な所が余りの声の小ささに耳まで届かなかった。
「人間が好きだから」
シズオは一瞬思考回路を停止してしまった。
「どう意味だよ」
「そのままの意味」
人間が好き。だから生きる。
シズオには今一ピンと来ない。
「もっと人間と一緒に居たかったんだ」
だから、寿命で80年其処らしか人間と触れ合うことが出来ないなんて堪えられなかったんだ。きっと自分を見て、不老不死に憧れる人間が出てくるだろうから、ゆくゆくは人間皆不老不死になればよい。それにはまず第一段階として自分を不老不死にする必要があった。例えそれが家族の命を犠牲にしなければならないとしても。
イザヤはそう弁解した。
一歩間違えれば変態で狂った人間の戯れ言にしか聞こえない。

「俺はさ、」
暫く聞く専門になっていたシズオが語り始めた。
「俺は死ぬから人間なんだと思う」
イザヤは返答しない。ただ黙ってその赤い瞳でシズオを見ている。
「自分でもよく分からねーけどよ、寿命があるから人間なんだよ。80年はたまたそれ以下しかないその人生を生きてこそ人間は人間と呼べるんじゃねーかな」
それは暗に不老不死を選んだイザヤを否定する言葉である。
「まあ確かに不老不死に憧れる気持ちは分かるけどな」
人間の永遠に尽きることはないだろうその願望。確かに憧れたことがないと言えば嘘になるが、実際それを達成したと言う人物を目の前にすると不老不死であると言うことを信じる信じないはさておき、必ずしもそれが幸福だとは限らないようだ。
「でもシズちゃんは嫌いだ」
「あ、そ」
脈絡がなさすぎる。嫌いなら尚更ここにいる必要は皆無だ。
「でも人間は好きだ」
だからなんだよ。シズオはイザヤを睨んだ。
「ここから出られないんだ」
どうやら契約時に、この城から出られないことも含まれていたらしい。
城なのだから、自分から会いに行けなくても会いに来る人間がいるだろうと思い、承諾したらしい。
恐らく契約した悪魔はそれもわかっていながら契約させたのだろう。流石悪魔と言うべきか。

「来たのがシズちゃんで良かったよ」
じゃないとこうして会話することも無かっただろうし。
シズオは城に入ったとき襲い掛かってきたイザヤを思いだし、苦笑した。
イザヤは笑みを浮かべるとシズオに話しかけた。
「これから暫くよろしく、シズちゃん」
その笑顔は本物だ。シズオは何故かそう思った。







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