救いのない恋だけど


誰にも理解されなくていい。
ただ相手が自分を好きでいてくれるなら、大好きな人間皆を敵に回したっていい。

「俺が人間を好きなように人間も俺のことを好きになればいいのに」
「また言ってやがる」
最近は静雄も自制が効くようになったのか、多少のことでは自動販売機がお亡くなりになったり、標識が残念なことにはなったりはしなくなった。

だからなのか、以前より普通の会話が増えた。
「あ、言っておくけどシズちゃんは大嫌いだから」
「あーわかってるわかってる」
静雄は聞きあきたことを示すかのように手を振る。
「でもシズちゃんは俺のこと好きだよね」
「嫌いに決まってんだろ」
えーだとかちぇっ等とぼやいている臨也を尻目に、静雄は煙草が切れたので自動販売機に向かう。
最近は投げる壊すという間違った使い方しかしておらず、この場所にあった自動販売機も静雄のせいでその度に新しくなっていく。
ガコンという無機質ならではの音を立てて、それは煙草を吐き出した。
「煙草は体に良くないよ」
自動販売機から出た煙草を手に持った瞬間、それは臨也の手に渡ってしまった。
「俺の金で買った煙草だ。返せ」
「えー」
「餓鬼くせーことすんな」
「ただで返すわけないじゃん」
俺の金で手に入れた煙草をどうしてさらに何かを払って手に戻さなければならない。
静雄は思わず側にあった標識を握った。
それはいとも簡単にメキメキと嫌な音を立てて曲がった。
あ、またやっちまった。

どれもこれもあれもそれも臨也のせいである。
「いざやくーん」
静雄が平仮名読みで臨也の名を呼ぶ時は身の危険を感じた方がいい。
長年の経験でわかったことだ。
「やだなあ、質問に答えてくれたらすぐに返すから」
やや慌てたように言うと、静雄はふん、と鼻を鳴らして臨也に近付いた。
「その質問とやらを聞かせてくれよ」
手をパキポキ鳴らしながら近付いてくる。肉弾戦をしようと言うのか。
静雄の人間離れした体力腕力その他諸々に何度泣かされたことか。
しかし臨也はただ慌てた振りをしているだけで、一向に焦りを見せない。
「シズちゃんは俺のこと、好き?」
「は?」
こいつ頭おかしいんじゃねーか。
突然浴びせかけられた言葉に対する静雄の脳内に浮かんだのはこの言葉である。
「好きって言ったら、返す」
にっこり笑って煙草を見せ付けるようにひらひらと振る。
好き。この二文字さえ言えば返してくれるらしいが、その言葉を言わせようとする彼の真意が読めない。
言うのは簡単だ。しかし何故。
「言ってどうするんだ」
臨也はきょとんとした顔を静雄に見せた。
「煙草を返すに決まってるじゃん」
そういうことではない。
「お前俺が嫌いなんじゃないのか」
「嫌いじゃないよ」
臨也は気持ち悪い程の笑顔を浮かべている。
「大嫌いなんだよ」
あ、そうですか。
最早反論するのにも疲れ、静雄はとりあえず煙草は返して貰わねばと口を開いた。

「、好きだ」
「ん」
臨也は先程とはまた違う笑顔を静雄に見せて、
「合格」
と言って静雄の方に煙草を投げた。

それは綺麗な放物線を描きながら、無事静雄の元に返ってきた。








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