「さて……魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」

服従の呪文、磔の呪文、死の呪文のことだ。
はっとして、ロンの方を見るとまさに今、自信なさげに回答している所だった。

「パパが一つ話してくれたんですけど……確か『服従の呪文』とかなんとか」

「ああ、そのとおりだ。おまえの父親ならたしかにそいつを知っているはずだ。一時期、魔法省をてこずらせたことがある。『服従の呪文』はな」

淡々とそう話していたマッド-アイだが、俺には嘲笑っているように見えた。こいつの正体を知っているから、そう思うのかも知れないけれど。

マッド-アイは机から黒い大蜘蛛を1匹つかみ出し、杖を向けて、低い声で、一言呟いた。

「インペリオ!服従せよ!」

それから、蜘蛛をタップダンスさせたり、宙返りさせたりしてみせた。


皆、笑っていた。

俺は笑えなかった。



「完全なる支配だ。」
マッド-アイはそう呟く

「わしはこいつを思いのままにできる。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、だれかの喉に飛び込ませることも……」

気付くと、もう誰一人として笑っている人はいなかった。


「油断大敵!」
話を続けていたマッド-アイが突如叫んだ。皆が、びくりと震える。

「ほかの呪文を知っている者はいるか?何か禁じられた呪文を?」

ネビルの手があがっていた。

駄目だ。あまりにも残酷なことが待ってるのに…

「何かね?」
マッド-アイがネビルを見据えていた。

「一つだけ――『磔の呪文』」

ネビルは小さな、しかしはっきりと聞こえる声で答えた。

「『磔の呪文』それがどんなものかわかるように、少し大きくする必要がある」

そう言って、蜘蛛を大きくした後、マッド-アイは呪文を唱えた。

「クルーシオ!苦しめ!」

もはや蜘蛛のことなんて俺はどうでも良かった。ネビルは真っ白な顔で拳を握り締め、恐怖で目を大きく見開いていた。


「やめて」
ハーマイオニーの金切り声と同時に体が動く。


「っネビル!」

俺は叫んで、ネビルを引っ張り俺の後ろに隠すようにして、目の前の残酷な現状を見せないようにした。そして、マッド-アイを静かに睨みつけた。


「レデュシオ!縮め!」

そんな俺とネビルから視線をそらし、マッド-アイは話を続けた。


「苦痛…『磔の呪文』が使えれば、拷問に『親指締め』もナイフも必要ない…これもかつて盛んに使われた」

「よろしい。ほかの呪文は…そうだな。ヒナタ…答えられるか?」

視線を戻し、マッド-アイは射抜くように俺を見ていた。

「死の呪文…アバダ ケダブラ」

俺は、マッド-アイの目を見据えて、はっきりと答えた。


「そうだ、最後にして最悪の呪文。『アバダ ケダブラ』…死の呪いだ」

「アバダ ケダブラ!」

目も眩むような緑の閃光。その瞬間クモは仰向けに引っくり返り、紛れもなく死んでいた。
女の子数人からで悲鳴があがった。



――最悪だ。いくら、映画を見ていたって、本を読んでいたってそれは俺の中でフィクションで、実際にこんな苦しみを、死を見せられて良い気分なわけがない。