1/3も伝えられない

左之は、私に甘い。
左之は、私の本当の気持ちに気付いてない。


初めての彼氏ができた時、私は溺れた。今思い出しても恥ずかしい位溺れていた。友達にも「やめておけ」と言われたけれど、初めてを全て、彼に取られた。甘い甘い彼の夢は、とても気恥ずかしくて、嬉しかった。それが夢だと気付いた時には、もう全て手遅れだった。その時、彼が言った事がある。

「本当に好きな相手だったら、相手からそういう話題が出ないかぎり、俺は触れない」

彼の本命の彼女は、まだ処女だった。


次の彼氏は束縛男。その次はDV予備軍。
そんな人たちと付き合いながら、1つ1つ傷とともに学んでいった。
こういう人は地雷。

友達いわく、ここまでダメンズを引き寄せるのは、ひとえに私に問題がある、と。
そうかもしれない。溺れている自覚はある。
でも最近、溺れながら、冷静になることも覚えた。
今の彼氏は、良いお家の跡取り。家柄に惹かれたわけじゃない。どこまでも穏やかな彼となら、今度こそ幸せになれると思った。





でもある日、突然気付いた。





彼氏の穏やかさは、怒りを覆い隠しているだけなのだと。
彼氏の怒りは、自分の家に向いていた。
どうして自由にさせてくれないんだ。
どうして継ぎたいといっている弟でなく俺なんだ。
どうして継がなくちゃいけないんだ。
どうして。
どうして。

私は、その怒りを許した。
そして、目が覚めた。



ああ、これは恋ではない。
単純に、許す事で愛されたいだけなんだ。
そうしたら、どうしてあんなに悪い男ばかりを選んできたのかがわかった、
許す事でしか、愛され方を知らなかったから。

私と彼らは、似た者どうしだった。
愛されたい彼らと、愛されたい私。
受け入れてもらいたい彼らと、受け入れる事で彼らに受け入れてもらいたい私。



一気に様々面倒になったところで、ふと左之のことを思い出した。
どうして、左之とは一緒に居続けられるんだろう。



左之は、誰にでも優しい。
特に女の子には、優しい。
笑っちゃうくらい優しくて、すこし怖い。
左之に一番が出来たら、もう誰も見なくなってしまうんじゃないかって。


私が選ばれる筈なんてないのに、少し期待した自分のがいて、すぐにその浅ましさに嫌気が差した。
つまり私も「受け入れられたい」人間なんだ。
そして左之もおそらく「受け入れる事で受け入れられたい」人なんだ。








少し、気持ちにが楽になった。
こんな私だけど、似た人がいる。
だから左之と一緒にいると楽なんだ。
左之は私を選ばないし
私には今彼氏がいるけれど
私は左之が、好き。





気づいたら携帯を開いて、左之に連絡していた。そうして漸く、いつも左之から声をかけてくれていた事に気付いた。本当にどこまでも優しくて、気付く人だ。

前に左之が好きでしただと言っていた居酒屋の個室を予約して、その日を迎える。
当日現れた左之助は、相変わらず垂れ目でヤン眉。だけど、いつもと同じ甘い笑顔と低い声。ああ、落ち着くな。
一通り彼氏の話をして、お酒が回ってきたところで、左之がこちらを向いた。


「なあ、名前」
「んー?」

真面目な話をするとき、後ろ髪を触るのは、左之の癖だ。



「お前がそうやって悪い男に引っかかり続けて、いつかもう恋愛とか全部面倒くさくなったら」
「失礼だな、その例え話」
「もしも、だって。お前が幸せになれない筈なんてないと思ってる」
「ふふ、ありがと。左之。…で?なに?」
「全部面倒くさくなったら…」



淡く甘い期待が胸をかすめる。
まって。だめだよ。だってあなたとわたしは。


「俺ん所来いよ。いくらでも付き合っってやるから」
「ふふ、ありがとう」


似た者同士の恋は、始まらない。


左之が伝えてくれた想いに、気づかない振りをして、私はじぶんの気持ちにに蓋をした。怖いから。似た者同士の恋は。左之が何を考えているかきっと私は想像して理解してしまうし、左之もまた、私が何を考えているのか想像して理解してしまうから。言えない気持ちにが大きくなることが、見えてしまうから。言えないのに、伝わってしまうから。



それなのにときめいてしまった私は、気づかないふりをしたまま卵焼きを頬張った。

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