ここにいるよ

「いちばん、あまいキスをしてよ」





驚くほど素直に出たことば。
久しぶりというほど久しぶりでもない。1週間ぶりのお泊りデート。
左之の目がわずかに揺れた。


「嫌ならいいや。危険日?危険週間?だから、とりあえずえっちは無しで。おやすみ」
「待て待て、嫌だなんて一言も言ってねぇだろ」
言ったまま反応なしの左之がまどろっこしくて、手も熱くなってきたし、と、冷たくて気持ちの良いシーツへと身を沈めた。
すかさず左之もベッドに入って来る。シーツが左之の体温を飲みこんで、私にとどけた。

「いつもならすぐ手を出すのに、誘っても何もしてこないから嫌なんだって判断したんだけど」
「好きな女にそんな事言われて嫌な男がいるかよ」
ふ、と息を吐いて左之が笑う。ああ、本当に綺麗な人だ。羨ましいほど、はだの肌理がこまかい。
左之のごつごつした手が、私の頬に触れる。手は、指はごつごつなのに、触れる温度は優しい。いつだって左之は私に触れる時はそっと触れてくる。これが彼の優しさだと気付くのに時間はかからなかったけれど、これが彼の怯えなのだと気付いたのはつい最近の事だった。
「好きなの?」
「今日はやけに機嫌が悪いな」
そっと目を閉じて頬を撫でる手に意識を持っていくと、私の頬を撫でていた手はいつの間にか頬を包んでいた。やさしさと、いとしさと、かなしさと。色々なものが混ざった、大人の体温。
「機嫌が悪い訳じゃなくて、眠いの。お酒、飲んだからかな」
「ならゆっくり休めよ。明日一日休みなんだろ?」
頬から耳へ、こめかみへ、髪へ、体温は抜けていく。
「休み」



左之は、ものすごく強い。強いのに、優しい。優しいから、迷う。



「ねえ、キスは?」
うとうとしそうになったけれど、髪を撫でる手が、私を現実に繋ぎとめる。左之が何に迷っているのかなんて、わからないけれど、それならせめてその迷いを受け止めたい。
「キス」
でもきっと、左之は訊いてもすぐには教えてくれないから。優しいから。だから。



「っん、」



せめてこうして甘える事で、貴方が貴方でいられるように。
此処が、左之の場所だよ。いつだって、私がいるから。だから。


「…はぁ、ん…っ」



酸欠で、くるしい。苦しいけど、左之は止めない。それでいい。ぶつけてよ。掻き抱くように腰と頭を固定され、ベッドの中で脚が絡まる。二人の体温が融和して、あたたかい。



「…はぁ、はぁ」
「名前、」
「ん…なに…?」


左之の瞳が、また揺れた。息がくるしい。くるしい。くるしいくらい、左之が好き。


「好きだ、名前」
「私なんて、大好きだし愛しちゃってるよ」
「ははっ、そりゃ頼もしいな」


左之の唇が額にあてられた。左之に身体をくっつけたまま、その腕を胸に抱いて、目を閉じる。



大丈夫、大丈夫。私はここにいるよ。























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大人になればなるほど、迷う事って増えると思います。
背負うものが大きくなってきて、自分の欲求だけでは生きられなくなってくる。
そういうときに、「どうしたい」と言葉にできない思いを受け止められる女の人は、とても魅力的だとおもいます。

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