サマー・レインダンス
「畜生!なんだよコレ!!!」
真夏の突発的豪雨に、不動の機嫌は最悪だ。
まるで制服のままプールにでも飛び込んだのかと思うほど、俺たちは既に全身ずぶ濡れだった。
「濡れてしまったものは仕方ないだろう」
言いながら俺は、水滴でどうしようもなくなってしまったゴーグルと、重くなったマントを外した。
不動が、2人きりで適当に何処かに行きたいと言い出したのは昨日の練習後のことだった。
どうして不動がそんなことを言い出したのかはわからなかったが、その時は急な申し出に応えることができず、代わりに今日、適当に電車に乗って、適当なところで降りて、適当にぶらぶらして帰る、まさにその途中だった。
最早傘の有無すらなんの意味もなかった。
遠くの空は、河川敷の高架下で雨を凌ぐ俺たちの惨めさなど知らず、眩しいくらいの青を見せている。
「…………」
「…………」
しばらく無言で並んでいた。
互いに頭の天辺から足の先までぬれてしまって。
不動の髪から滴る水に見とれていた俺の唇を、不動が簡単に奪ってしまってからは、ここが外だというのも忘れて、二人の世界に浸ってしまった。
――――……たとえ、誰かに見られたとしても構わなかったのかもしれない。どうせ知り合いに会うような場所ではない。そもそもこんな雨の中こんな所にわざわざ出てくるやつは居ない。
***
「こんな伝説を知っているか?」
「ん?」
夢中になっている間に雨は通り過ぎてしまったようで、辺りは雨上がり特有の快いとも悪いとも言えない空気に満ちていた。遠くの空にはぼんやりと虹まで掛かっている。
制服の上着を羽織った俺とは対照的に、不動は蒸し暑いのか、未だにシャツのボタンすら閉めていない。
「虹の麓には宝が眠っているらしい」
「は?なにそれ」
虹とか。一生辿り着けねぇよそんなもん。
不動は小馬鹿にしたように鼻で笑う。
なぜこんな話をいきなり不動に振ったのか、それは俺自身にもわからなかったが、俺の口からは勝手に続きが語られた。
「……だからこの伝説は間違っていると思ってな」
「ん?」
「俺の宝はあんな所には無い」
俺は不動の手を握った。
俺の言わんとすることを理解して、不動の頬が少しだけ、赤くなった気がした。しかし不動はすぐに「くっせ」と一言放つと愉快そうに笑い出してしまった。
どうして不動が何処かに行きたいと言い出したのか。
どうして俺が突然虹の話などしたくなったのか。
不動が俺の手を握り返した。
それだけで、全ての答えが出た、ような気がした。
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W司令塔の日記念!
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