天河スイミング | ナノ


河スイミング




商店街のアーケードのど真ん中にデカイ笹(もはや竹レベルのやつ)が現れたのが先月末。
知らないうちに、金銀やカラフルな折紙で飾り付けられ、同じく折紙の短冊がここぞとばかりにぶら下がっていた。

おりひめさま、ひこぼしさま、ぼくのおねがいかなえてください。

「なーんて」

叶うわけねぇだろ。

この歳になって、未だにそんな伝説だかなんだかよくわからないものを信じたりしない。短冊だって用意してねぇし。
一年に一度の逢瀬だかなんだか知らねぇけど、なんでそれが願いを叶えてくれることになるんだよ。年に一度だろ?恋人と二人きりなんだろ??他人の願い叶えてる暇ねぇだろどう考えたって。雨降ったら会えないってのも嘘だよな。どうせ雲の向こうでよろしくやってんだぜ。だいたいあの話おかしいだろ、独りでどうやって干し草のブロック千個も積み上げんだよ、無理だろ。

「――……さっきから何をそんなに拗ねているんだお前は」
「……別に」

用意されたパイプ椅子に座って、熱心に短冊を書いている鬼道はこちらを振り返る。
学校帰り、俺たちは急にバケツをひっくり返したような雨に降られて、急遽アーケード街を行くことになったのだ。
途中で出くわしたこの笹の下に、短冊と筆記用具さえ置かれていなければ、今頃は適当にファミレス辺りで時間を潰していただろうに。

「それにしても、酷い雨だな……」

折角、七夕なのに。
鬼道はなんだか少しガッカリしている。

(おいおいマジかよ。まさか信じてんのかよ)

内心戦慄しつつ、「雲の上で会ってんだろ」とさっき考えたことをそのまま言ってやったら、「案外ロマンチストだな」と笑われた。どっちがだ。

鬼道はそのまま短冊に願いを書いて、笹の先にくくりつけている。
鬼道が何を書いたのか。気にならねぇと言えば嘘だが、あえて確認しようとも思わない。期待が外れて落胆するのはゴメンだった。

(はぁ……)

思わずため息をついた。
アーケードの外では、未だに雨足が弱まる気配はない。




この歳になって、そんな伝説なんて信じてるわけじゃないけど、


織姫さま、彦星さま、

もしも雲の向こうでお互い無事会えたなら


僕のお願い叶えて下さい。


(この鈍い男が早く気づいてくれますように)




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昨日のうちにうpろうとしたのに寝落ちしてしまった件。
1日おくれで七夕ネタです。