そういうの、苦手です | ナノ


ういうの、苦手です




「円堂さんだよ!!」
「豪炎寺さんですって!」


立向居と虎丸の声が辺りに響き渡る。
2人の話が、互いの尊敬する先輩のことから、どちらの先輩がより凄いかということにスイッチして、早30分が過ぎようとしていた。

この2人が、円堂、そして豪炎寺のことで揉めるのは、今に始まったことではなかった。もちろん揉めるといっても、互いに先輩自慢がヒートアップしているだけで、険悪なムードになったりするわけではない。しかし、あまりに頻繁に勃発するので、周囲のメンバーは最初の方こそ諫めていたが、最近はあまり気にせず放置するか、もしくは微笑ましく見守るか――そういう処置をとるようになっていた。

そんな中、豪炎寺は内心冷や汗をかきながら、二人の会話に懸命に聞き耳を立てていた。

別に自分のことをどうこう言われるのが気になるわけではないし、それは構わないのだ。むしろ、虎丸が自分のことをそれほどまでに慕ってくれていることは嬉しいくらいだ。
ただ、なにかの拍子に、虎丸がとんでもないことを口走ったりしないかどうか……それだけが豪炎寺の気掛かりだった。

そう、豪炎寺は、円堂が立向居に対するよりも多大な愛情を、虎丸に対して注いでいるのだ。この愛情とは、恋愛的な意味での愛情に他ならない。そしてそれは虎丸も同じである。
頭を撫でたり、スキンシップをとって可愛がってやるのは日常茶飯事であるし、あまり大声では言えないが、キスだってした。とっくに、円堂と立向居のような純粋な師弟関係とはおさらばしているわけで、それが露呈することを、豪炎寺は一番恐れているのだった。

我ながら、女々しい奴だと思う。
しかしどうしても、自分たちのことを、チームのメンバーには内緒にしておきたかったのだ。

それが何故なのかは、豪炎寺にもわからない。

「どうしたの豪炎寺くん?」

吹雪が顔を覗き込んできた。豪炎寺は吹雪と目を合わせると、そのまま目線だけを依然として白熱している2人へと移す。

「……あぁ、」

虎丸くん??と、吹雪は合点がいったようだった。

「可愛いね」
「……?」
「可愛いね、虎丸くん」
「…………」
「……そんなに怖い顔しないで。あんな風に、尊敬してるって言ってもらえて、よかったねって」

それだけだよ、と吹雪は小さく微笑む。
こういう時でなければ、思わずこちらも一緒に微笑んでしまいそうな笑顔だ。しかし今の豪炎寺には、その笑顔がまるでこちらの心を見透かしているかのように思えて、少し居心地が悪かった。

豪炎寺が吹雪から視線を逸らし、ため息をひとつついたまさにその時だった。

「――ですよね!豪炎寺さん!!」
「え!?あ、あぁ……」

急に虎丸に同意を求められ、一体何を話していたのかわからないままについ返事をしてしまった豪炎寺は、その場に居た虎丸以外のチームメイトが、こちらを見て驚愕していることに気づいた。

「豪炎寺……」

染岡が、「やっちまったな」と言わんばかりの表情を見せる。
さっきまで一緒に話していた吹雪も、苦笑しつつ目だけで「御愁傷様」と語りかけているようだった。

自分は何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
にこにことこちらを見つめる虎丸とは異なり、豪炎寺は背中を嫌な汗が流れていくのを感じていた。
立向居が恐る恐るこちらを窺っている。

「ほ、ほんとなんですか、豪炎寺さん?」
「……何がだ」
「いや、だから……その、」


豪炎寺さんが虎丸くんと一緒にお風呂入ったり同じ布団で寝たりしてるって本当なんですか??






――……その後しばらくの間、豪炎寺が目に見えて凹んでしまったのは言うまでもない。




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