Will you marry me? | ナノ


Will you marry me?





「頼みがあるんだけど」

ベッドの上で雑誌を読んでいた不動が、突然そんなことを言い出した。
この時間に不動が俺の部屋に入り浸るようになってしばらく経つが、こんなことは初めてだった。


不動とは最近新しい技を2人で練習するようになった。
全体練習の後に2人だけで特訓する時間も自然と増えていたのだが、いつの間にか、不動はその後も俺の部屋にやってくるようになった。そして消灯前に自分の部屋に帰っていくのが常になっていたのだ。
俺の部屋に来ても不動は別段何かするわけでなく、たまに練習中の必殺技や、次の練習のフォーメーションを確認する以外は、特に俺とも何かを話そうとしたことはなかった。だから奴がなんのために毎晩俺の部屋にやって来るのか不思議だったし、それを直接不動に尋ねたこともあったのだが、不動は「べつに?」と言うだけで、理由を答えようとはしない。
俺は、理由もなしに人の部屋に居座っているのかと最初は不満だったが、俺のベッドに寝転がってダラダラと過ごしている不動が、それだけなのになんとなく楽しそうにしているので、それでもいいかと、気にしなくなってきたところだったのだ。

その不動からまさかの頼み事。

「……なんだいきなり?」

俺は好奇心を悟られないように、努めて冷静に言葉を返した。
しかし返ってきたのは、俺が全く予想だにしなかった台詞だった。


「養子にしてくれよ」


……は?


「だからさ、大人になったら養子にしてよ、鬼道クンの」


不動は此方を一度も見ずに言った。相変わらず、寝転がって雑誌を読んでいる。
対して俺は、不動の言った事を頭の中で何度も何度も繰り返していた。

養子?
養子ってあの養子だろうか?
俺だって養子だ!
不動は養子にしろと言ったか?
俺の養子なのか!?
俺の息子になりたいのか!??

……つまり、なんだ、意味がわからない。


どうして不動はいきなりそんなことを言い出したのだろうかと、ひたすら考え続けていると、

「なぁ」
「え、」
「どうなの?してくれんの?」

いつまでも黙りこくっている俺に痺れを切らしたのか、不動が雑誌から顔を上げてこちらを見ていた。

「いや、その……」
「……」
「お前は、俺の息子になりたい、と、そういうことなのか?」

不動は少しだけ驚いたような顔をした。
しかし直ぐにニヤリと笑うと、顔を半分雑誌で隠した。

「うん、そう。鬼道クンの『養子』になりたい」

こちらを見つめるその目が、何故だかとても色っぽく見えてしまい、俺はなんだか居たたまれない気持ちになった。
戸惑いながらも、俺は続けて尋ねる。

「……な、なぜ俺なんだ?」
「…………」
「その、兄弟になりたい、というのならわかる。俺はお前の父親というよりは……」
「ダメなの!?ダメじゃねぇの!!?」

突然大声を出されたので、思わず怯んでしまう。
不動はいつの間にか目の前に来ていて、俺は圧倒されているうちに押し倒されてしまった。

「だ、ダメというか……だから不動、俺はお前の父親というより……」
「……父親になれって言ってるわけじゃねぇんだよ」
「え??」
「だから……」


俺は、あんたの『養子』になりてぇの。


不動の顔は恐ろしいくらいに真剣だった。
俺がまた黙り込んでしまうと、不動は今度こそ諦めたようで、深いため息をつきながら、俺の上から退こうとした。

――……なぜそんなにも、不動が養子に拘るのか俺には全くわからない。わからなかったのだが、淋しそうな顔をして退いていく不動を見た時、俺は突然、それでも確かに、

こいつの望んでいることなら、なんでも叶えてやりたいと思ったのだ。


不動の腕を掴む。
一瞬ビクリとして、不動は膝立ちのまま動きを止めた。

「……何?」
「正直なところ……お前の真意を俺はわかっていない、と思う。しかし、お前が、なりたいと言うなら……――」


不動の瞳は揺れていた。
その顔を見つめながら、俺はゆっくりと頷いていた。




***


「――……なんてこともあったよな」
「そうだな」
「鬼道クン全く気づいてねぇんだもん」
「お前があんなわかりにくい言い方をするからだ。だいたいあの頃の俺が知るわけがないだろう、好きだなんだの一言もないうちからお前は……」
「あー、ハイハイ!」

もう聞き飽きた、と不動はカラカラと笑った。

俺が不動の言った『養子』の意味を知ったのは、それから何年か経って後のことだった。
その頃には、俺たちの仲はただのチームメイトではなくなっていて、俺はようやくあの時わからなかった不動の真意に気づくことができたのだった。

「だから、今度は俺が言おう、不動」

不動は飲みかけのカップを持ち上げる手を止めた。
首を傾けて、俺の言葉を待っている。

そう、あの時とは違う。
こんな不動の様子を、俺は、心底愛しいと思うようになったのだ。


「俺の養子になってくれるか?」


不動はあの時と同じように、少しだけ驚いた顔をして、

嬉しそうに、笑った。





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6月5日はプロポーズの日らしいので!
間に合ってよかった!!←
ちなみに実際に養子縁組する時は、年長者が親にならねばなりませんので、鬼道さんが不動くんより誕生日遅かったら逆になっちゃいますが、まぁそこは公式で誕生日発表されてないし……ってことで目を瞑っていただければと……(笑)