Melancholic Snow | ナノ


Melancholic Snow




珍しく吹雪と虎丸が並んでいるので、何の話をしているのかと近寄った豪炎寺は、その行動をすぐさま後悔する羽目になった。

「へ?豪炎寺さんですか??お願いしたらしてくれますよ、ちゅー」

虎丸はけろっとした顔でとんでもない話をしていた。吹雪は吹雪で「へぇー、そうなんだー?」とニコニコしている。
穴があったら入りたいというのは、こういう心境のことを言うのだと豪炎寺は思った。

「虎丸……お前、一体何の話を……」
「あ、ごーえんじさん!」
「豪炎寺くん」

虎丸は豪炎寺を視界に入れるや否や、満面の笑みを浮かべて走りよってきた。
豪炎寺は余計なことを話すなと釘を刺すつもりだったのに、自分を見上げてキラキラと輝く虎丸の表情を見ているとどうでもよくなってしまい、代わりにひとつため息を吐いた。
そんな2人の様子を眺めながら吹雪は笑う。

「うらやましいなぁ」
「ん?」
「だって、僕の好きな人は頼んでもやってくれないから」

照れ屋さんだからね。
吹雪は微笑んでいたが、どことなく寂しそうな笑顔だった。

「え、吹雪さんの好きな人って……」
「虎丸ー!!」

突然聞こえてきた怒号に、虎丸はもちろん、その場にいた全員が動きを止めた。

「染岡さん!?なんですか??」
「お前吹雪に何聞いてんだ!!?」
「え?」
「あ!ちがっ……、その!え、円堂が呼んでたぞ!!円堂が!!」
「キャプテンがですか?」
「そうだよ!早く行けって!!」

じゃあちょっといってきます!と元気よく手をふって、虎丸は駆けていった。
染岡は肩で息をしながら、今度は吹雪に向き直った。そんな染岡を見上げながら、吹雪はまた、微笑んでいる。

「心配しなくても、言ったりしないよ」
「…………」
「それとも、やっぱり嫌?」

僕が染岡くんのこと好きなの。

「そうじゃねぇけど!」
「……けど?」
「…………」
「……」

そのまま染岡も吹雪も黙って俯いてしまった。
居心地の悪さを感じた豪炎寺はとりあえず何か言おうとして染岡の名前を呼んだ。

「染岡」
「…………」

染岡はしばらく豪炎寺と目をあわせてから軽く頷いたかと思うと、「じゃあな」と言い残してその場を後にした。
正直なところ、豪炎寺は何を以って染岡が頷いたのかはさっぱりわからなかったが、あの空気を打破できたなら良しとしようと考えた。しかし、吹雪と二人きりになってからも沈黙は続き、豪炎寺はやはり居心地が悪くて再び何か言おうと口を開こうとした。だが、それよりも先に、ため息を吐いた吹雪が、豪炎寺へと話しかけてきたのだった。

「ごめんね。……気をつかわせちゃって」
「いや、俺はただ染岡の名前を呼んだだけだ」
「?」
「……そしたら勝手に染岡が行ってしまった……」
「あははっ」

なにそれ、と吹雪はまた笑う。

「……染岡くんに、豪炎寺くんを見習って貰おうかな」
「何がだ?」
「頼んだらキスくらいして、って」
「……あまり染岡を困らすなよ」
「困ってるのは僕だよ」
「…………」
「――……ちゃんと、ちゃんとね?僕のこと……好きって言ってくれるんだよ?」
「……そうか」
「照れ屋さんなだけだよね」
「そうだな」
「……ホントにそう思う?」
「思うさ」
「どうして??」
「染岡を見てればわかる、あいつはお前が好きだよ」

なんともらしくないことを言っているなと思いながら、豪炎寺は少しだけ笑った。
同じ事を考えたのか、吹雪も少しだけ、今までとは違う顔で笑っている。

「ほんとにわかるの?」
「当然だ。お前と俺とじゃ、あいつと過ごした時間の長さが違う」

豪炎寺は更に笑みを深くした。吹雪は一瞬面食らった顔をしたが、

「妬けちゃうなぁ。でも、豪炎寺くんが言うなら、そうだよね」

と、どこか吹っ切れたような顔をして、大きく伸びをした。
豪炎寺がいつかの時に見たような、晴れ晴れとした顔だった。

「ありがとう豪炎寺くん」
「俺は何もしてない」
「うん、でもありがとう」


僕らは多分、大丈夫だよ。


吹雪は最後に、思い切り笑った。
豪炎寺がその日見た中で一番、輝く笑顔だった。



(あ!そっちも、虎丸くんと仲良くね)
(――……俺たちの話はいい)
(……豪炎寺くんも大概照れ屋だね)