Feel so xxx | ナノ


Feel so xxx





「かまってくれねぇの、さみしーんだけど」

不動がそう言って、鬼道の耳に噛み付いたのは、午前中の練習が終わり、メンバーが各々の部屋へと戻った頃のこと。最初から自室に戻るつもりのなかった不動は、そのまま鬼道の部屋までついてきた。
同じ部屋に居るのに、自分に関心がない鬼道を、ちょっとからかってやるだけのつもりだったのだ。
ところが……――

「はぁ……んっ……、……ぁ!」

その直後、首筋に噛み付いてきた鬼道に、不動はそれから今まで、ずっと翻弄され続けているのだ。


「……っ、きど……ク、ンっ」
「…………、不動……」

鬼道は不動の首筋だけでなく、頬や唇に口付けたり、Tシャツから覗く鎖骨に舌を這わせだしていたが、それ以外の場所にまで、手を伸ばそうとはしない。あくまで、今この瞬間に露出している部位にしか、鬼道は触れてこなかった。

(もっと……し、した……)

それだけなのに、不動は自分の下半身が疼いているような感覚に陥っている。
だがそれは無理もなかった。鬼道は想いが通じた後ですら、あまりこういう行為を好まなかった。その気になるのはいつも不動で、そのたびに不動はほんの少しだけ、本当に少しだけ、虚しさを感じていたのだ。

そんな鬼道が、こんな……――


(ヤバい、うれしい、これ)


鬼道の舌が自分の肌に触れたのだと理解した瞬間に、信じられないほど歓喜に震えた。
不動はただただしあわせだった。
その感情の思うままに、鬼道の名前を叫び続けてやろうと思った。


が、今はそういうわけにもいかない。
隣の部屋では他のチームメイトが休息している。午後からはまた練習もある。
しかもその前に昼飯があるんじゃないか、マネージャー(しかも鬼道の妹)が呼びになんて来た日には……。
冷えていく頭とは裏腹に、鬼道の行為はエスカレートこそしないものの、彼の慕情を感じるには充分で、不動の身体はだんだんと熱を持ちはじめていた。
不動は、ともすれば洩れてしまいそうになる声と同時に、今にも飛んでしまいそうな理性を必死で堪えていたが、このままでは、非常にまずい。


「――……ぅ、……ちょ……鬼道、クン!」

不動はありったけの力を込めて、鬼道の肩を押し返す。
ハァ……と悩ましげなため息をつきながら、鬼道はようやく不動の首筋から頭を離した。

「……あ、」
「ご、午後からもあんだぞ練習……盛ってんじゃねーって」

自分のことはすっかり棚にあげて、不動は鬼道に言い放った。ついでに乱れた呼吸を整えようと必死になって深呼吸していると、それを見た鬼道は気まずそうに項垂れてしまった。

「……すまない、その」
「…………?」
「お、お前が……かまってくれ、だなんて……じゃれてきたのがかわいくて、つい――」

自分のやったことを思い返してか、鬼道は耳まで真っ赤になっている。
そんな鬼道を見つめながら、不動が驚きに目を見開いたままでいると、それに気づいた鬼道は外していたゴーグルをひっつかみ「先に行く」と部屋から出ていってしまった。


「冗談じゃねぇよ……」

誰もいなくなった部屋の中で、不動はひとりシーツへと突っ伏した。

このあとの練習、どうしてくれんだよ!なんでそんな、煽るようなことばっか!!

「……しかもお前、ここ俺の部屋じゃねーよ」



結局不動は、昼食の用意ができたと春奈が呼びに来るまで、鬼道の部屋で途方に暮れているしかなかったのだった。







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このあと春奈ちゃんと一悶着あるかもしれないしないかもしれない。