トラブルメイカーはお前! | ナノ



※年齢操作注意
※佐久間視点


ラブルメイカーはお前!





38度の熱を出してるにも関わらず、重い身体を引き摺ってでも、源田は外出すると言ってきかなかった。
なんでも、それはそれは大事な約束があるとかで、源田がこんなに必死になるんだからよっぽど大事な約束なんだろう。
(例えば俺との約束とどっちが大事かと訊いて、やつを大変に困らせた、なんてことは断じて無い)
俺が代行することでなんとか源田を宥め、約束の場所まで来てみれば……。


「ハァ!?なんでテメェが居んだよ!?」


……それはこっちの台詞だ……。


約束の場所に現れたのは、中学時代、結局最後まで反りのあわなかった人物、

不動明王だった。



***


「……どうしてお前がここに来るんだ」
「そりゃこっちのセリフだっての。俺は源田と話しに来たんだけど」
「生憎源田は此処へは来れない。用件なら俺が聞く」
「……なんでお前に話さなきゃなんねーの。帰るわ、俺」
「待て!源田に話って何だ?不動、お前源田とどういう……」
「べっつにぃー??」

源田に直接聞いてみれば??
昔と変わらない、人の神経を逆撫でするあの「イイ笑顔」で不動は言う。髪型はすっかり変わってしまったくせに、そういうところは相変わらずだった。
だいたい源田に聞いたところで

「友人じゃないか。元チームメイトだぞ?」

と、無駄に爽やかな笑顔で言い切るに決まっている。その場面を容易く想像してしまって、俺は頭が痛くなった。

愛媛であんな目にあったクセに、源田は何故だか不動をさっさと受け入れてしまって、全く納得できなかった俺は、それでも、帝国に編入してきた不動が、なんとなく源田になついていたような気はしていたし、卒業後も彼らが頻繁に連絡を取り合っていたことを、一応、知っては、いた。
(ちなみに俺のケータイには、不動の連絡先は何一つ入ってない!というか入れてない!!)

知ってはいたけど――……


「あ、何?もしかしてお前、疑ってんの??」

俺と源田のこと。

例の笑みを浮かべた後で、不動はさも愉快そうに目を細めた。
なんなんだこいつは。本当に人の神経を逆撫でする天才だなと思う、わりと本気で。何度も言うけど。

「……別に疑ってるわけじゃない」
「どうだか!つか俺と源田に何かあるなんて有り得ねっての」
「あっっったりまえだ!!あってたまるか!!!」
「それじゃあ別に俺と源田が何話しようが関係ねーだろ」
「それとこれとは…!」
「いいじゃねぇか!源田は素直な奴だぜ!!それに比べてどっかの誰かさんは……」

不意に不動の表情が曇ったので、てっきりまた言いくるめられるんじゃないかと思っていた俺は、拍子抜けしてそのまま黙った。
不動があまりに神妙そうな顔をするので

「ふ、不動……?」

と、顔を覗き込むと、奴は舌打ちを返して俺から顔を背けた。
その態度に些かムッとしていると、不動は大きくため息をついて、俺の隣に腰掛けた。

「まぁこの際お前でいいや、ちょっと聞きたいことあんだけど」
「『で』ってなんだ、『で』って」
「いいから聞けって――……その、鬼道が…………」
「鬼道?」

急に歯切れが悪くなったと思ったら、突然鬼道の名前が出てきて俺は少々ではあるが驚いた。

あぁそういえば鬼道と不動も、確か中学の終わりぐらいから「そういうこと」になっていたんだった。俺は未だに鬼道が不動を選んだ事実に納得できていないから忘れていたけど。ついでに言うとその事実を俺が知ったのは高校卒業間際で、それなのに源田は最初から知っていたとか、何も信じられなくなった俺が自棄になって暴れたのも今ではいい思い出だ(無論サッカーでの話だ)

そういうわけでまぁ鬼道の名前を聞いた瞬間に、色々と文句を言って今までの鬱憤を晴らしてやろうかという考えも浮かんだのだが、不動がバツの悪そうな、それでいてやけに神妙な顔をしているので、そんな気はどこかに失せてしまった。

「鬼道が、どうかしたのか?」

もう一度、不動の顔を覗き込んだが、さっきのような舌打ちは聞こえてこない。

「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………」
「…………お、おい、ふど」
「やっぱ無理」
「はぁ???!!!!!」

不動の台詞に俺はとんでもなく大きな声を出してしまった。
無理って何だ!無理って!!

「うん、そうだ、やっぱり無理、無理だ無理」
「むり、って……失礼な奴だな貴様!何が無理だって言うんだ!?」
「だって佐久間、テメェ絶対鬼道に言うだろ!お前あいつに嘘つけねぇじゃん」
「うっ……い、いや、でもそれは源田だってそうだろう!!?」
「あいつは嘘つかねぇけど、そもそも喋らねぇもん。お前は鬼道に問い質されたら絶対喋ンだろ」
「くううぅ……」

だって相手が鬼道なら仕方ないじゃないか!
ていうかお前が源田を語るなちくしょう!!
まるで「この金魚のフンが」とでも言いたげな不動に対して、俺がどう言い返そうか悩みに悩み抜いていると、不意に後方から、

「不動!佐久間!」

と、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
振り返ってみると、噂をすればなんとやら、そこには両手にスーパーの袋を提げた鬼道が立っていた。

「「鬼道!?」」

思わず不動とハモってしまい互いに顔をしかめる。
しかし鬼道はさすがだ、ドレッドヘアーはそのままに、中学時代のゴーグルをやめてサングラスに替えたおかげか、ますます男前に磨きがかかり、その結果周囲の視線を独り占めしている。
そしてスーパーの袋がこれっぽっちも似合っていない。注目されているのはこっちが原因かもしれない。

「久しぶりだな佐久間」
「鬼道……どうしてここに?」
「あぁ、実はな……」


同居人が家出したっきり帰ってこないんで迎えに来た。


鬼道はニヤリと笑う。
背後の空気が少しだけ変わった気がした。

「不動!」
「…………」
「帰るぞ」
「……………………チッ」

不動は舌打ちをすると「遅ぇんだよ迎えに来るのが!」と不貞腐れながらも鬼道の横に並んだ。
2人は俺を取り残して「俺が悪かった」とか「別にいいって」とか言い合っている。大方、喧嘩か何かしていたんだろうが。

……まさか源田に話って、このことだったのか。

俺はなんだか急に不動が可愛く思えて、それが可笑しくて思わず笑ってしまった。
完全に2人の世界だった鬼道は、その声に俺の存在を思い出したのか、こちらに向き直った。

「すまなかったな、佐久間」
「え、いや、俺は何も」
「実は源田に聞いてここに来たんだが……お前たち2人だと知って、言い争いにでもなってやしないか少しだけ心配だった」

鬼道は苦笑している。当たらずとも遠からずだったので、俺は少しだけ視線を逸らした。不動は鬼道の後ろでそっぽを向いている。

「それから、これ」
「え?」

鬼道が思い出したように、両手に提げたスーパーの袋を手渡してきた。よく見ると片方はドラッグストアの袋だ。

「源田に頼まれたんだ。風邪で大変らしいな?お代は別に構わな」
「はあああああ!!!????」

鬼道が言い切る前に、俺がさっきよりも更に大声を上げてしまった。驚く鬼道の後ろで不動が厭そうな顔をしている。

「源田に!?あ、あいつ、なんて……!!??」
「い、いや、不動のことで電話をしたら、今源田は風邪を引いていて、佐久間が代わりに不動と会っていると……ついでに、だいぶ体調が悪化してしまったから薬か何か買ってきてもらえないか、と。あとできれば食料品も、と言われた」

だからそうなった。と、鬼道は俺に渡った荷物を指差した。
源田は朝より酷くなったのかとか、そういえば今日の夕飯何も考えてなかったとか、なんでみんな源田に相談するんだとか、そもそも電話なんか出てないでちゃんと寝てろとか、俺の頭は一気にいろいろなことを考えてしまってぐちゃぐちゃだったが、そんなことは全く問題ではなかった、そんなことより

「どうしてそれを!!鬼道に頼むんだ!!???」

そっちのほうが俺には大問題で、気付けば俺は「俺に頼めばいいだろおぉぉ!!!」なんて叫びながら財布から取り出した5000円札を鬼道の手に捩じ込んで、「釣りは要らない!!」と言い残し、荷物を抱えて一目散に家を目指していた。

だから、

「……うまくやってるみたいだな」
「そうか?なーんかちょっとだけ佐久間に同情したぜ、俺」
「おかげで俺はお前を連れ戻せたがな」
「…………」
「今度、久々に4人一緒に食事でもしようか」
「おぅ。うちに呼んだらいいんじゃね?」

なんて、鬼道と不動のやり取りは、全く知らない。

そして、帰宅した俺を待っていたのは、

「源田お前なあぁぁ!!!」
「……あぁ、おかえり佐久間……愛してる」
「は!!?」
「愛してる、佐久間……」
「な、何言って……??」
「……こ、これで、もう、思い残すことは……」
「げ、源田あああああ!!???」

――……わりと瀕死だった源田で、鬼道がドラッグストアで風邪薬を何種類も買い込んでたおかげで、俺の5000円は金額的に全然足りてなかったとか、その数日後、なんとか回復した源田と、鬼道・不動のうちで晩飯をご馳走になったなんていうのは、

別の、話。






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2組ともナチュラルに同棲しててすみません。
ラストはimgのetc.に置いてる年齢操作帝国のイラと併せてお楽しみくだされば幸い。