月夜の晩の異邦人
その夜のことを、緑川は今でもしっかりと覚えている。
***
「考えてみたらおかしな話だったよ」
俺達が宇宙人だっただなんて。
河川敷の土手に二人で腰掛けながら、緑川は笑う。
月は既に二人の真上まで来ていた。
「緑川はそればっかりだね」
「だってそうじゃないか。やってたことはただのサッカーだったのにさ」
「学校も破壊したけど??」
「それは言わないお約束だよヒロト、結構気にしてるんだから……」
終わり良ければ全て良しとは言ったけど、と緑川は頬を膨らませた。
ごめんごめん、と基山は微笑む。
「何が大変だったってやっぱり、あれだよ、役を作るのが」
「またそれだ」
「高圧的な態度作ってさー……」
「髪の毛も逆立ててね」
フフっと笑いながら基山は立ち上がる。
そろそろ戻らなければならない。
「そういえば、ヒロトはあまり苦労してなかったよね、宇宙人の役作り。……サッカー以外も器用にこなすんだから」
天は二物を与えずっていうのにさ、と若干ふてくされながら緑川は言う。
基山を見上げると、彼はいつものあの微笑みのままで、緑川を見下ろしている。
緑川が基山に続くため、腰をあげようとしたその時だった。
「宇宙人だよ」
緑川は基山が何を言ったのかわからなかった。
「……え?」
「だから――」
俺は、宇宙人なんだよ。
月を背負った基山の顔は緑川からはよく見えない。
しかし月光に縁取られ、薄ぼんやりと輝いて見えるその紅い髪と真っ白な肌、そして自分を射抜いているであろう翡翠の瞳から、緑川は目を逸らすことが出来なかった。
「…………」
不思議と緑川の口からは「そんなの嘘だ」という否定の言葉は出てこなかった。
あぁ、やっぱりそうだったのだと、妙に納得してしまって。
「――そろそろ戻ろうか」
基山はそう言って、未だに呆けている緑川を残し、一人土手を登っていった。
***
結局、基山の言ったことが冗談だったのか真実だったのか、その後の緑川に問いただすことはできなかった。今となってはその真偽を確かめる術もない。
しかしその夜のことを、緑川は今でもしっかりと覚えている。
そして、一生忘れることはなかった。
----------
冗談か本当かは私もわからないというか好きに読んでいただきたい←
ちなみにタイトルの「異邦人」は、「異星人」より字面がよかったから採用しただけで正確には宇宙人という意味はないですので悪しからず。
←