LOVE TO YOU | ナノ


LOVE TO YOU




俺は今危機に直面している。


「はい!綱海さん!あーん!」

目の前には立向居。
向かいの席から身を乗り出して、照れているのか、ほんのりと頬が染まっていて、ちょっと上目遣いで俺を見つめてくる。
あーこいつホントに可愛いよなー……うん、それはいいんだけどよ。

なんでこいつニンジン持ってんの??

正確には調理されたニンジン(あれだ、ほら、よくハンバーグなんかについてくる感じのやつ)をフォークにぶっ刺して、それを俺の前につきだしているわけなんだが、何、なんだこれ?何かの罰ゲーム??

「……立向居、あのさ」
「綱海さん早く食べて下さい」
「いや、食べろったってお前これアレじゃん、む、無理だし」
「そ、そんなこと言われたって……」

俺だって恥ずかしいんです綱海さんお願いします早く食べて下さい!
さっきよりも必死になって、立向居は俺に迫ってきた。

あぁ可愛い。こいつが手にしているのがあの忌々しい橙色でさえなきゃすぐにお願いされてやるのに……と、頭の隅で考えながらふと隣のテーブルの端で鬼道と佐久間がこちらをガン見していることに気づいたが見なかったことにした。

視線を戻す。
本当に恥ずかしいんだろう、立向居は今にも泣き出しそうだった。
あぁだからこの忌々しい橙色さえ以下略。

「お願いします!」
「だから、そう言われてもな……」
「つ、綱海さんが食べてくれないんだったら……」

俺が渋っていると立向居は思い切り眉を寄せて、そして大声で言いはなった。


「俺、もう二度と、綱海さんと、きっ、キスしませんからね……っ!」




***


立向居がとんでもないことを口走ってそこからは怒涛だった。

綱海は立向居の手首をひっ掴んだと思ったら、そのままフォークに刺さったニンジンを口にほうばり、渋い顔をしながら飲み込んだあと(あまり噛んでいなかった)
「それは困る!!」
と、大声で叫んだかと思うと、何事が起こっているのかずっと観察していた俺達を尻目に、立向居の頬にキスをおみまいして、ついでにぎゅーっと擬音が聞こえてきそうなくらいに抱きしめたのだった。
立向居は可哀想に、フォークを取り落として真っ赤な顔で固まっていた。

呆気にとられてしばらくぽかんとしていた俺だったが、そのうちあまりにも恥ずかしくなって、思わず目を逸らしてしまった。
向かいに座ってずっと二人を見ていた鬼道も、同じように視線を外していた。

「……おい、鬼道」
「……なんだ佐久間」
「……どうしようか」
「……俺達は何も見なかった――」

それでいいだろう。と言いながら、鬼道は席をたったので、俺も鬼道の後を追って食堂を出た。
最後にチラと振り返ると、いつの間にか頬じゃなくってしっかりばっちりキスをしている二人が見えた。

……気がしたということにしておく。



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立向居くんがこんなことをやらかしたのは「綱海さんにニンジンを食べさせるまで帰ってくるな」という罰ゲームでも課せられたからではないでしょうか←