stand by him | ナノ


stand by him





最近なんだかやけに不動さんが近くにいるような気がする。

もちろん、べったりくっついて離れないというわけじゃなくて(そんなことになったら多分お兄ちゃんが黙ってない。……あくまで多分)気づいたら視界のどこかに必ず不動さんが存在している、ということ。

今だって彼は、食堂で明日のお昼の献立を考えてる私の向かいのテーブルで、何気なくケータイをいじっているけれど、さっきまでは談話室の隅にいたのを私は知っている。
わざわざ食堂に移動してきたのは一体どういうことなんだろう。

そういうことが何度かあったから、一度不審に思ってあえて場所を変えてみたら、しばらくしてやっぱり私と同じ場所に来るので直接聞いてみたけれど「自意識過剰なんじゃねーの?」と一蹴されてしまった。
その時はそうなのかもと思ったけど……

(自意識過剰なんかじゃ、ない、よね??)

やっぱり不動さんは意図して私の近くに居るような気がする。


「春奈」


聞き慣れた声に顔をあげると、予想と違わず、そこにいたのはお兄ちゃんだった。

「なぁに、お兄ちゃん?」
「少し聞きたいことがあるんだが」
「うん?どうしたの?」

お兄ちゃんの聞きたいことはあまり大したことではなくて、すぐに解決してしまったのだけど、そのあともなんとなく私たちは兄妹で他愛ない話に花を咲かせていた。FFIの合宿が始まって以来、お兄ちゃんはいつも私を気にかけてくれていて、よくこんな風に私のところに話しに来てくれているのだった。


ふと、私は痛いくらいの何かを感じて、何気なく顔を上げた。
そしたら、

不動さんがじっとこっちを見ていた。

(わっ)

あまりに眼差しが真剣だったので、私はびっくりして思わず目を逸らしてしまった。
もう一度チラリと目をやってみると、やっぱりじっとこっちを見ている。
けれどその割には、私とは全く視線がかち合わなかった。
一体どこを見ているのかと考えてかけて、答えがたったひとつしかないことに気づく。

(……お兄ちゃんだ)

不動さんはお兄ちゃんを見ている。
それもとてつもなく真剣に。
見つめている、というほうが正しいかもしれない。

どうして?とか、なぜ?とか、とにかく不思議でならなかったのだけど、それよりも強すぎる視線にソワソワしてしまって。
更に、そんな視線に当のお兄ちゃんは全く気づいていなくて、私は途端に落ち着かなくなってしまった。

「……?春奈?聞いているか??」
「あ、ご、ごめんなさいお兄ちゃん!!」
「かまわないが……急にどうした?」
「……あのね、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「その、……ふ、不動さんと、何かあったの?」
「不動?」

そこで初めてお兄ちゃんは不動さんの方に目をやった。
急にお兄ちゃんがそっちを向いたので、ばっちり目線のあってしまった不動さんは、少し狼狽えたようだった。

「どうした不動?」
「……あ?」
「何か用か?」
「何かって、何が??」
「こちらを見ていただろう?」
「はぁ?別に見てねーし。たまたま目ぇあっただけだろ?」

自意識過剰なんじゃねーの?と、不動さんはまるで私の時と同じように答えてテーブルをあとにしてしまい、お兄ちゃんは納得したのかしていないのか、眉間にシワを寄せたまま「わからん奴だ」と呟いて首をひねっていた。


***


誰も居なくなってしまった食堂でぼんやり考える。
2人のやり取りを端で見ていて、少しだけ勘づいたことがあった。
お兄ちゃんとやり取りする不動さんは、いつもと何も変わらないように振る舞っていたけれど、少し、ほんの少しだけ……

(……嬉しそうだったかも?)


もしかして不動さんは今までもずっと、私の元に話しにやってくるお兄ちゃんのことを見つめていたんだろうか。
そんな風にお兄ちゃんを見つめて、そして……??





不動さんが私の近くを陣取る理由が少しだけ見えたような気がしたけれど、同時になんだか、知ってはいけないことを知ってしまったような気もして。

今後、不動さんの前で平常心が保てるかどうか、とても、心配。





(……お前、何こっち見てニヤニヤしてんの?キモいんだけど)
(貴様、春奈に向かってキモいとはなんだキモいとは)
(な、なんだかごめんなさい、いろいろと……)