裏腹な僕の
だって信じられるはずがないだろう。
あいつは金持ちでお坊ちゃんで将来はえらいひとになるような奴で、間違っても俺なんかに「好きだ」なんて言うはずがない言うわけがない。
そもそもそれを言い続けていたのは俺のほうで、それでも本心を悟られまいと必死に茶化していたのに、そのたびに冗談は嫌いだって怪訝な顔をして流していたのは鬼道のほうなのに。
そうだろこいつえらいひとになるわけだろ男なんか好きになったら人生棒にふるだろ跡継ぎとかどうすんだよ大問題だろだいたいなんで俺なんだよ円堂とか豪炎寺とか佐久間とか源田とかいるだろたくさんいるだろなんで俺なんだよお前俺のこと憎んでただろすげえ嫌いだっただろ絶対嫌いだっただろ一度だって俺の好きを信じたことなんかなかっただろ、
それを なんで いまさら
「馬っ鹿じゃねぇの??」
ようやく俺の口をついて出たのはそんな台詞で、自分でも驚く程に感情のこもらない声だった。
「どぉしたの大丈夫鬼道クン?練習のしすぎで頭おかしくなっちゃった??」
自分の口角がだんだんと上がっていくのがわかる。俺は今とても「イイ顔」をしているんだろう。逆に鬼道はあのゴーグルごしでもわかる程に顔を歪ませていた。
「……わかった、もういい」
すまなかったと、忘れてくれと付け足して鬼道は去っていく。
何がわかったっていうんだ。俺が一体いつからどんな想いでお前を見ていたかなんて全然知らないくせに。どれだけこの瞬間を待ち焦がれていたかなんて絶対わかってないくせに。
嘘だよ鬼道クンさっきのは違うよ違う違う違うそうじゃないそんなこと言いたかったんじゃないでも鬼道があんなこと言うわけないよなやっぱり少しおかしくなったんだろそうだろけど俺それでも鬼道がずっと好きで好きで好きで好きで好きでだから俺が言いたかったのは――……
鬼道が振り返ってくれればいいと思った。
視界を遮るように溢れていくこの鬱陶しいものに気づいてくれればいいと思った。
でもそんなことは全くなくって、鬼道はそのまま行ってしまって、俺の視界は完全に滲んでしまって、翻るマントの残像以外なにもわからなくなって。
唯一わかっているのはもうこの先訪れることのない最高の機会を、自分の手でふいにしてしまったということだけだった。
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