わかってはいたんだろう。
さすがの私も、理解はしていたんだろう。
にやり、と嫌な笑い方をする反面、綺麗な笑い方(褒め言葉)をする奴のことが危険だってことを。
私、という存在は至って普通で別段、非日常に憧れている訳でもなく日々を楽しく生きていたのだ。
新しい発見も、見つけて喜ぶほどではなく、私から見たら同級生は皆同じに見えた。
「みんな、一緒。集まったって話すことなんてないのに…。馬鹿、なのかな?」
みんなが私に敵意を向けているのは知っている。でもそれに反論するほど暇ではない。
面倒なのは嫌いだ。楽がいい。年頃ながら、年寄りみたいなことを考えて、寝転がる。
場所は学校の屋上。今日は雨は降ってないからか、空が高く見える。
ぼーっと雲を眺めていると、私の顔に影がかかった。
「ねぇ、どうしたの?」
そういって、赤い目をした男の子は私に近づいてきた。
優しい声だけど表情と合っていない。何、この人怖い。
同級生にこんな気味が悪い人はいない。もしかして、先輩か後輩か。はたまたOBか…。誰だこの人。いや関わりたくもない、こんな人。
「ん?どうしたの?」
笑顔で私に近づいてくる。やだ何。怖い、来ないで。
言葉が、でない。
「君、なんなの?俺に何かあるの?」
目付きが変わった。そう、それだけ。中身は全く変化していない。口許も瞳の奥も全く変化していない。
「な、何かご用、ですか?」
やっと一言。少し吃ってしまったが問題はないだろう。
「いや、特にないよ。たださ知りたいだけなんだよ。君のことをさ…」
本名を呼ばれ、私は何か口走ったのではないか、と心配するが何か言った記憶はない。むしろ私はこの人のことを知らない。
「ああ、俺の名前?聞いたことない?」
首を縦に振り肯定の意を示す。
「折原、臨也って言うんだけど…」
その折原さんは、自分の思っていることをつらつらと淀みなく喋る、喋る。口内は渇かないんだろうか。変なことを考え、何考えてるんだ私は、と自分自身に叱責する。
「で、まあ、君には俺を手伝って欲しいんだ。やってくれるよね?」
否定を認めないくらい、強い口調。私は否定をしようと口を開いた。
「やって、くれるんだね。ありがとう」
待って、まだ私は何も言ってない。勝手に決めないで。
「やる、なんて一言もいってません」
「今、言ったじゃないか。はい。契約完了」
ただの揚げ足取りだ。この人は仕組んでいたんだ。最低。
「最低だなんて、ひどいなぁ」
心にも思ってないこと言わないで。
「あなたは、ただの嘘つきよ」
彼に向かって一言。
私は、屋上から逃げ出した。
絶対にもう、会いたくない。
会いたくなんかなかったのに。
「やぁ、また会ったね!」
笑顔で近付いてきて、なんだろうこの人。私が会いたくないのを理解していないのか。
「君に、お願いしたいことがあるんだ」
にこやかに…そういった。まるで商売するときに、買い物客を呼び寄せる為の作り笑い。嫌気がさす。気持ち悪い。
「何ですか」
「お、受けてくれるのかい?」
「それを受けて、貴方が私の前から消えてくれるなら」
「言うようになったね」
ははは、と折原さんは笑う。
まるで楽しみを見つけたように、まるで…いい玩具を見つけた、ように。
「よし、なら君は今日から俺の彼…」
「断りますね」
早いなぁ、と折原さんは笑う。誰が、彼女になんかになりますか。
「でもさ、君って俺のこと気にはなってるでしょう?」
「会いたくない意味合いでは、ですが」
「なら、やっぱり付き合おう。俺、君のこと好きだよ」
その言葉の心はからっぽだよ。最悪。
しかし私は色々と流され勝手に彼の中で彼女という地位にされていた。どういうこと。
「俺、やっぱり君のこと好きだよ」
彼は、赤い瞳に何も写さないで告白をはいた。
やっぱり、嘘つきは君だ。
嘘つきは、溺れてしまえ。
110830
「小夜曲」様へ企画提出。
嘘つきは泥棒の始まりです。
ありがとうございました!