「ねぇ、」と彼は私の名を呼んだ。
反射的に振り返ってしまったのは、いつの癖なのだろうか、私にはわからない。
「ねぇ、」
もう一度彼は私の名を呼ぶ。
「喋れないって本当なのかい?」
彼の赤い瞳は私の不安を包み込むように、いや、責めるように見つめていた。
「ねぇ、答えてよ……」
あなたは、何をいっているの
答えられないわよ
「違うよ」
と、だけ。
伝わればいいのに。
伝わらない、この声。
ああもどかしい。
あなたの瞳は憂いを帯び私を見つめる。
「何か、喋ってよ…!」
喋れていたら喋っているわよ、折原さん。
全く、まだ理解したくないのかしら。
あなたの瞳に移る私は誰?
あなたの愛しい彼女?
それとも……?
貴方の瞳を覆う全てのものが壊れたら良い
そしたら私だけがあなたを愛してあげられる。
110518
あれ、黒い、あれ……
こんなはずでは…
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