人形アソビ(目箱) | ナノ
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 禊くんが帰ってきた、と思い玄関の方へ行ってみると見たことのない三人組がいた。いや、一人だけ知っているような顔の子がいる。誰だっけ…。


「あ、むかえちゃんかな?」


 あのぼおっとした目、手から出てくる腐敗臭。うん、むかえちゃんだ。懐かしいなあ。


「…誰ですかぁ?私あなたなんて知りませんよぉ?」


 他の二人は自分には関係ないことか、と思ったらしく二人で少しいがみ合いながら居間へと向かっていく。


「そっか、忘れちゃったか…。なら、ちょっと待ってね」


 私は言うが早いががばりとむかえちゃんに抱き着いた。別に抱き着かなくてもいいけれど、抱き着いたほうが見映えがいいというのが事実だ。ばきり、と私の中で折れる音がした。


「……遊心、様?」
「やだなあ、友達でしょ?様じゃなくていいよー」


 やっぱり、むかえちゃんはこうでなきゃ、ね。むかえちゃんはふわりと微笑む。うん、かわいい。


「えーと、手から腐敗するんだったっけ?じゃあ、よいしょっと…こんなもんかなあ」


 私は声をだし、手の腐敗を止めさせた。私の人形だもの。これくらい出来なきゃおかしいでしょう。私の大切な人形だもの。

「向こうに行こっか、あの二人と禊くんとの関係教えてくれる?」


 私はむかえちゃんの手をとって、居間へと向かったのだった。




『あれ、どうしてこうなってるの?』


禊くんが帰ってきたのは、むかえちゃんと一緒に来た、男の子と女の子がぶつかり、倒れてたところを私とむかえちゃんが二人を運び寝かせていたときだった。…1番部屋がボロボロになっているけれども。


「禊くん、おかえり。遅かったねー」


 禊くんはどこか疲れているように見える。多分学校で何かしらがあったに違いない。あとで水槽学園に私の人形作って入れておこう。禊くんがどうしてるか知りたいし。

『はあ、やっぱり怒江ちゃんを折ったんだね…。あれ、でも腐敗のほうはどうしたの?』
「え、私の人形だもん。人形を操れないなんてどうしようもないよ?まあ今は折ってるから人格も出てこないけどね。もう少し操りを研究しなきゃね、禊くん。とりあえず、さ。部屋どうにかしよーよ。管理人さん怒って、出ていけって言われちゃうよ?大騒ぎだったし…」


 操りを少し解いてみる。腐敗は押さえながら、人格を少しずつ解いていく。心を折ったものを戻したことなんてない。でも、何か出来る気がする。

『遊心ちゃんやめていいよ、僕がやるからさ。でもまだ腐敗は止めさせてあげて。握手とか多分、怒江ちゃんはやりたいだろうし。…出来る?』
「わかんない。なかったことにされたことないし。でもやってみるね」


 いつの間にか部屋は綺麗になっていて、喧嘩した後もなかったことになっていた。


「遊心、ちゃん、球磨川さん」
「お、怒江ちゃん。おはよ。ごめんね」
『折ったのをなかったことにしたけど。遊心ちゃん、ダメだった?』


 だめ、といえばだめだけれど数分は持つ。難しいなあ、本当。私のスキルは使い物にならないや。


「怒江ちゃん、手、つなご?」


 手を差し延べ握手する。人の暖かさを知ったのか、彼女は涙を流し、微笑んでいた。


「時間、かな。怒江ちゃん、ごめんね」


 手を離し、怒江ちゃんと離れる。じゅく、と腐敗音。やっぱり持たなかった。


『じゃあ、これから三人に用があったんだよね。転校、してもらえるかな。箱庭学園にさ。僕も水槽学園がなくなったら行くから、準備しといてね?』
「禊くん、私は?」
『遊心ちゃんはね秘密兵器みたいなものだから。ピンチになったら呼ぶね』


 意味ありげに微笑む禊くんを久しぶりに見たような気がした。



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