何年もあっていないはずなのに、禊くんからは何の変化も感じなかった。でも人形は持ってないや。飽きちゃったのかな?でもそんなことはいいや。私はよく禊くんの顔を覗いたことはなかったが、整っていた顔はあのままで少しかっこよさを足した感じだった。
「変わらないね」
『どういうことかな?遊心ちゃん。説明してくれないかな?』
無駄に括弧つけているのも変わらない。
「言葉通りだよ」
『そっか。あ、元気だった?』
「元気だった。…ねえ、君本当に禊くん?」
『ひどいなあ。じゃあさ、確かめてみればいいよ』
肩を竦めやれやれという表情を見せ、禊くんは腕を広げた。抱き着け、ということらしく私はおもいっきり抱き着いた。それも一歩間違えば骨が折れるくらいぎゅっと。そして私は願うのだ。手を離したら彼は――…。でも私は手を離せなかった。いや、私自身は離していたが、禊くんがぎゅと私を抱きしめていたから離せなかったのだ。
『いきなり来るんだから。折れるかと思ったよ?そのことをなかったことにしたけどね』
禊くんは変わってないと思ったけど少し変わったようだった。ちょっとしょっく。かっこわらいかっことじ。
『ねえ遊心ちゃん僕に協力してくれない?』
「んー、家提供してくれるならいいかなあ…」
最近の人形どもは使い勝手が荒く、私はほとほと困っていたのだ。家もかしてくれないし、ご飯作ってくれてもおいしくないし。
『同棲ってことになるけど平気?』
「え、」
禊くんと同棲。一緒に住むってことなの。何それ、かっこよくなった禊くんと一緒なの。
『嫌だ?』
「うーん」
『でも拒否権はないよ?だって家ないんでしょう?』
禊くんは私の手をとって歩き始めた。ちょっと顔が赤い。体温が心地いい。かわいいなあ。多分禊くんは知っていたんだろう。既に家がないってことも、私が禊くんくらいとしかやっていけないってことも。本当、禊くんは怖いよね。でもそこがいいのだけど。
「そういえば、禊くんって今どうしてるの?」
『んーとね、どーでもいい高校生活をエンジョイしてるかな?』
「そっか。でも廃校にしてるんでしょう?」
『まあね。でもそれこそ僕みたいなものだからさ』
少しさみしげな顔をして禊くんは語る。大嘘つき(オールフィクション)なんてものがなかったら、禊くんは普通に過ごしていたのだろうな、と思う。私もこんなモノがなかったら普通に過ごしていただろうけれど。でも私たちは普通以下だ。普通以下がどんなに頑張ったって、普通になんかになれるはずもないんだから。わかっているけれど、幸せという形のないものを求める。
でも私は今が好きだ。好きだからこそ、今禊くんといれるようなものなのだから。
『ついたよ、』
そういって禊くんはおそらく適当に借りたのであろうアパートに私を入れてくれた。
「禊くんフリーターじゃなかったんだ…」
『学生は、フリーターって言わないからね』
禊くんはいつも通りの笑みを私に見せた。
111217
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