階段を下りる、下りる、下りる。 駐車場や図書館、温泉や大舞台、それから墓場、美容院、球技場。どこにも人はいなかった。運がいいというのはこういうことか。 むしろここまで壮大なフロアを作りすぎではないかと思う。温泉はちゃんとした温泉でしたし。卵入れたいくらいです。図書館は資料室と言わんばかりの本、本、本でしたし、むしろ審判資料を探したくもなりました。 「どれだけ我が儘だったのかすごくわかりますね。お金とりすぎやしませんか」 そう思いながら球技場を歩く。しっかりとした土だ、なんて思いながら歩くと後ろからバンという音が聞こえた。現れたか、なんて思い振り向くとそこには生徒会の人がいた。あーあ、喜界島もがなに出会ってしまった。まあ仕方ないか。眼鏡を付けたほうがいいかなんて、こちらの私では考えないことを考える。 「えっ菜詩ちゃん、なんでここに?」 「どうしてでしょうね、もがなちゃん」 そっと、眼鏡を付ける。すぐ外せるように鼻眼鏡状態にしておこう。 「ああ、みなさん息荒いですね。走ってきたんですか。次で多分終わりですよ。黒神めだかを救うのでしょう。早く行ったほうがいいかと」 「見境さんなのかい?君は?」 「阿久根高貴よ、それは失礼じゃないかい。見境菜詩審判員として有名な私を忘れてしまったのかい、失礼な。破壊臣は直ったといっても過言でもないのに、私を忘れるのは悲しいかな。とまあ無駄口を叩いても仕方ないか。ほら、早く行きなさい。私の判断(ジャッジメント)では、この後でけりがつくよ。おそらくね」 ああ、私の異常(アブノーマル)は予知なんてものが出来てしまったとは如何なものか。私はただただ眼前に広がるゲームセンターと倒れている黒神めだかのふりをした行橋未造が見えるだけだ。しかし、行橋未造もすごいものだ、変化も、感情も読み取れるのだから。 「人吉善吉、私からの最後のエールを送ろう。“人吉善吉、貴様には貴様なりの1つの時期いや分岐点が来たようだ。それを逃さないように”それだけだ。ほら、早く、黒神めだかを助けるのだろう」 「お、おう、またな見境!」 「ああ、また会うだろうが。あと少し黒神真黒は残って貰おう。数分だから追い付ける」 「……ああ」 球技場から人吉、阿久根、喜界島の3人が消えた。 「黒神真黒よ、私が君を残した理由はわかるよな」 「生憎ね多少なりともわかるよ」 「きみは解析者所謂アナリストとして解析不可能な彼――都城王土を知りたくてフラスコ計画に参加した、でいいのだろう?」 「まあ、そうなるね」 「そうか、助かった。もう言っていい。多分人吉善吉が君を待っている」 「見境ちゃんはいいのかい?」 「私は喜界島もがなを助けるために来たものだ。まだ登場する場面ではないよ。ゆっくり行くさ」 「そうか、なら行くね」 黒神真黒は走って行こうとした。まずい。 「黒神真黒。最後の忠告だ。君走りすぎはやめたほうがいい。血管が足りないからな。“君の時期は過ぎてしまったかもしれない。だが、君の分岐点はまだあるから、心配し過ぎてはいけない。”ただの私の判断だ。あまり鵜呑みにしないように」 少し走るスピードを抑えて黒神真黒は、人吉善吉たちの元へ向かう。 「……使いすぎた、か。まずいな」 くい、と眼鏡を当てる。もう私は見境菜詩であって、見境菜詩ではない。 「もがなちゃんを助けなきゃ、ね」 私はただ一人の友人のためだけに、歩いてゆく。 120812 prev| |