幼い頃から気が強くて、女の子扱いされることのほうが少なかった。周りの女の子たちが男の子にからかわれたら、それを懲らしめる。
そうしているうちにどんどん腕っ節も強くなって、ますます女扱いされなくなった。
武具への興味も増し、ホムラの里で自ら武器を誂える。
既製品より手に馴染む感触に魅入られ、没頭していた頃に(勇者)たちと出会った。

その旅の目的に惹かれて同行し、私の人生に大きな衝撃を与えたのがシルビア。今まで受けたことがないほど女性らしい扱いを受け、自分も女だったのだと悟る。
それと同時に戦士としては限界を感じ始めていた。もうひとつ、なにか、強みが欲しい。

「ねぇベロニカ」
「どうしたの?」
「私も、魔法を扱えるようになりたい」

大きな瞳が驚きで見開かれる。
本当は、戦闘で傷つくシルビアを見るたび、彼を守りたいと思ったりもしていたのだけれど。既に私より強い彼に、そんな感情を抱くことが烏滸がましくて、口に出すことは出来なかった。

「ふーん…何があったか知らないけど、いいわよ。教えてあげる」

ベロニカは私の言葉に一度目を細め、考える素振りを見せたあと、申し出を快諾してくれた。
キャンプ地では、皆が各々好きなことをする時間に。宿ではベロニカの部屋に赴いて、魔法のなんたるかを学ぶ。私にも理解できるよう、噛み砕いて説明されたそれを、忘れないようにと何度も復唱した。

そしてある晩。
試しに小さな火の玉をイメージして、指先に魔力を集めてみる。何も無かった場所がうっすら光を放ち始め、ボッと小さな音を立て、燃え上がった。

「いい感じね」
「できた、できたよベロニカ!」

ちりちりと空気を巻き込んで燃える火の玉は、不思議と熱さを感じない。とっぷりと日が暮れた空を見上げ、今日はこのくらいにしておきましょ、と言うベロニカに笑顔を返した。

次の日、日中犯した小さなミス。
背後への警戒を怠り、がら空きだった背中を魔物に狙われた。咄嗟に庇ってくれたシルビアのお陰で、その場は切り抜けることが出来たのだけれど。
自分の至らなさを噛み締め、拳を握る。
剣術の鍛錬をしていなかった訳では無い。でもどこかに慢心はあって、それが心を曇らせた。

「(名前)、あたしそろそろ休むけど」
「うん、おやすみ。付き合ってくれてありがとう」
「まだ寝ないの?」
「もう少し…」

今晩はベロニカの用意してくれた氷塊に、メラを当てる練習をしている。
まだ狙った場所に当たらないこともあり、大事に至らぬよう、火消し用の水も用意されていた。
ベロニカ以外のメンバーも皆床につき、今テントの外にいるのは私だけ。長時間の鍛錬で浮かぶ額の汗を、手で拭う。

他のことに気を取られて魔法を扱えるほど器用じゃないのに、昼間の出来事が浮かんでは消えていた。

「あっつ」

いくつめだったかはわからない。指先から生み出した火の玉をコントロールできず、じりりと肌の焼ける痛みに気が逸れる。氷塊に当てるはずのそれが、狙いを外し、大木から分かれた枝を打った。
すぐさま水の入った桶と斧を手に、木の根元へ駆け寄る。幸い手足を掛けるだけの起伏があり、登れそうなことを確認して、火のついた枝の真下へ水を撒いた。
木の幹に登り、枝との境目に斧を打ち付ける。
ある程度のところで枝が自重を支えきれなくなり、バキバキと静まり返った空間では一層響く音を立て、折れた。
消し残しのないよう、上からさらに水を掛けたところで、物音を聞きつけたのか、テントから起き抜けの面々が姿を現す。

「…随分派手にやったのね」
「ごめん、ベロニカ」
「いいのいいの」
「(名前)ちゃん、もう休みましょ?」
「うん…」

するりとさり気なく手を取ったシルビアに連れられ、彼の寝泊まりするテントに入った。ほんのり香る花の匂いが鼻腔をくすぐる。
座って、と示された場所に腰掛けると、彼は向かい合うようにして膝を立てた。やや下にある視線からは、表情を隠しきることが難しい。

「(名前)ちゃん、なにか悩んでるのね?」

すべて見透かされてしまいそうな瞳から、思わず目を逸らす。
逸らしたのだけど、大きな手のひらが私の両頬を包み込み、驚いて戻した視線がシルビアから離せなくなった。

「見当違いだったらごめんなさいね。近頃自分を追い込むように、頑張っていたみたいだから」

言葉を選んでいるのがわかる。整った眉は八の字になり、その顔には憂いの色が浮かんでいた。

「…失敗をするのは、悪いことじゃないのよ?アタシも今までたくさん失敗してきたわ」
「シルビアも…?」
「失敗から学んで、できるようになったこともたくさんあるの。頼りになる仲間達がいるんだもの。誰かの失敗は別の誰かがカバーすれば、それでいいのよ」

優しい声色と手の温もりに、じんわりと目頭が熱くなってくる。彼の左手に自分の右手を重ねたら、ガチガチに固まってた心が綻んで、ぼろぼろと大粒の涙が溢れてきた。
シルビアの右手が優しく頭を撫でてくれる。
綺麗で私の手より一回り大きい、異性の指に目元を拭われ、くすぐったいような嬉しいような、照れくさいようないろんな感情が入り交じって、口元が緩んだ。
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