強くなりたいという理由は様々だが、私もテリーも守れなかったことを悔いているという点は共通していた。無愛想な彼のことだから直接話してくれたわけでもなく、些細な情報から憶測した私の想像でしかないのだが、それでも彼が「最強の剣」に拘り続ける様を近くで見ていれば、なんとなく察することができるものだ。

無愛想な彼に寄り付く者など殆ど居なければ、一匹狼の彼自身も人と関わろうとしない。それでもテリーが特別な関係でもない私を側に置いてくれているということは、最早奇跡と表しても過言ではないだろう。同じ目的を持つ旅の仲間が必要だった私にとっては、彼は好条件なことこの上ない。
だが似た者同士な私とテリーの間にも相違点は多々あった。特に私を懊悩させるのが、彼の戦法だ。それは戦術でもなく、技術でもない。何者であれ情けをかけずに斬り伏せる圧倒的な淡白さ。

「余所見をするな。俺の仕事が増える」
「ごめん、……でも」

とある公家が所有している宝剣を貰い受ける交換条件として、近隣の洞窟に巣食う魔物の討伐を命ぜられた。その魔物の首はとうに落ち、禍々しい色の体液を苔生した地面に滲ませている。だが、テリーはその剣を振るうことは辞めず、また私も剣を鞘に収めているわけでもない。

その姿を、未だ自我を持たない黒一色の瞳が眺めていた。

「魔物に情が移ったか」
「私たちが此処に来なければと思うと……どうしても」
「馬鹿馬鹿しい」

テリーがそれらに向かって剣を振るえば、肉塊となったそれは無残に転がった。その光景から思わず顔を逸らしたくなるも、先程それで彼に迷惑をかけたことを思い出してグッと堪える。

「奴等が成長すれば幾多の旅人のが犠牲になるだろう。入り口に転がっていた屍のようにな」
「……」
「どうする」

目の前で親を殺された子が、人間に憎悪を抱かない筈が無い。この魔物らを殲滅するということは、過剰に命を屠っているように見える裏で、多くの同胞を救っている。何も人間として理に反したことをしているわけでもない。魔物の子と我々を天秤に掛けたとき、優先するべきは明らかに後者なのだから。

「……ごめん、テリーの言う通りにする」
「それで良い。俺はお前を少なからず頼りにしている」
「うん」

手に取った剣で最後の一匹を斬れば、テリーは漸く剣を鞘に収めた。
これ程のことで心が爛れてしまいそうなほど傷を負ってしまっては、先に進めず仕舞いなことは分かっている。私にも少なからず、テリーのように魔物に慈悲を持たずに唯人間の利だけを考えて冷静に振る舞いたいという思いはあった。だが、その時にどうしても大切な人を奪った残虐極まりない野盗が脳裏に浮かぶのだ。

そんな相反する想いに挟まれても尚テリーと共に居たいと思ったのは、長らく旅をする中で彼に情が移ってしまったからであろう。彼の戦いぶりを見る度に、何れ人の道を踏み外す時が来るのではないかと第六感が告げていた。その時に私が側に居なければ、きっとまた救えなかったことを後悔してしまう。成れの果ては我々が忌み嫌った瞳と同じ色だなんて、皮肉にも程があるだろうから。
Vanquisher
(征服者)

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