※ver.4.0設定

熱い。暑い。あつい。
身体全体が火照るような感覚のまま、その熱さに耐えかね目を覚ました。薄目に目を動かせば豆電球の淡い灯りがあった。それは時折二、三度、瞬くかのように灯ったかと思えば、一瞬視界に何も映らない程の暗闇が包むほど、その光はあまりに不安定で、今にも消えそうなものだった。

「うー......」

むくりとなんとか身体を起こす。まるで錘でも付けてるんじゃないかと錯覚するほどに身体が重い。しかも熱い。

「ようやく起きたか」
「クオードくんー」
「全く、だからあれほど雨の中無理に外へ出るなと言っただろう」
「うぅー、だってクオードくんが......」
「良いから病人は黙って寝ていろ」

先日は珍しく酷い雨だった、のだが、たまたま自由人の集落と行き来する用があったのを、今にも溶けそうな頭でなんとか思い出す。急ぎでもないんだからまたにしろと止めたクオードくんの言葉を振り払い、いやでも早いほうがいいから、と豪雨の中出かけたのが悪かったか。先日は冷えで酷く寒かったものだが、今度は一転、その熱さに眩暈すらしそうになった。

「熱は?」
「うん?」
「何度だったと聞いてるんだ」

ソファにだらしなく寝転がった状態の私に彼は机に向かったまま視線を上げず、そう訊ねた。ピピピ、と小さく電子音が鳴る。ああ、そういえば熱を測っていたところだったんだった、と思い返し、なんとかその記された数字を声にした。

「......うーん......39度7分.......」
「おいどういうことだ、上がってるじゃないか」
「わかんない......」

おかしいな、薬は飲んだんだけれど、と重い身体を持ち上げる。その瞬間、はらりと何かがソファから落ちた。誰かがかけてくれたのか、それは先程まで自分にかけられていたであろう毛布だった。

「ねえクオードくん......」

今この場には私とクオードくんしかいない。記憶が正しければ、ここにほかの軍団員が来た覚えもないし、ディアンジやザグルフが来た覚えもない。となれば、答えは一つ。思考回路も考えるだけの力も、熱さでとっくに溶けてしまっているだろうに妙に頭は冴えていて、すぐそれに辿り着いてしまった。

「熱伝染る......」

けれどもそれを口にする前に、ふいに身体が持ち上がった。溜息混じりの呆れ声で「世話が焼ける奴だ」とすぐ耳元で言ったのが聞こえ、そう返すと、

「黙れ、このまま熱が上がる方が迷惑だ、大人しく安静にしていろ」

と皮肉めいた答えが返り、相変わらずの返答に思わず笑いが零れた。そっと掴んだ肩は私よりずっと冷たくて、いや、私が熱すぎるだけなのかもしれないけれど、いつもはないであろうその距離の近さに、どくんどくんと激しく胸が脈打つのが分かった。――静けさの残る夜更け、その脈動の音はきっと彼にも聞こえていたに違いない。

「クオードくん?」
「......お前に無理はさせたくない」

微かに聞こえた彼のその言葉を聞いた途端、ただでさえ熱かった身体がさらに熱くなるのを感じた。それこそ、頭のてっぺんからつまの先まで熱を感じて、ただでさえ溶けかけていた思考が、その一言でさらに熱く溶けだしてしまいそうだった。


Melt
(溶ける)

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