故郷が滅んだとか、いつも良くしてくれた村の人々が私たちを助けるために死んでしまったとか、私と、そして双子の兄でもある勇者(勇者)だけがたった二人、取り残されてしまったとか、色々言われたけれど、別にそれを不幸だと思ったことはないし、悲観したこともない。勇者でなかったら、きっと故郷はああならなかっただろうけれど、悲観したところで後悔したところで彼が勇者である現実は変わらないし、過ぎたことをどうこう言ったところで村が元に戻らないこと、私も、兄も知っている。

――でも、今回ばかりはそんな出自と立場を呪いたくなるようだった。

「......今日はここで休むらしい」

天空城。空いた穴から下に落ちれば、そこはこことは天と地ほど違う、魔王の住む世界。連絡をしに、(勇者)がそう言ったが、右から左へ流れていくだけ。

「ああ、うん」
「――おい、(名前)、聞いてるのか?」
「聞いてるよ。ここで休んで明日デスピサロと戦うんでしょ」
「......そんなにアイツと戦いたくないなら別に来なくていい」
「行かないとは言ってない」

とは言ったものの、あまり兄の言葉は入ってこなかった。勇者の身内である以上、世界を揺るがす魔王と戦わなければならないのは宿命だ。次に会うときは敵同士だなんて、そんなこと分かっていたはずだ。

呆れたようなため息のあと、パタリと扉が閉まった。沈黙。時計の音だけが響く室内。そんな広くないはずなのに、妙に反響したように感じる。

「.......だってしょうがないじゃない、好きになっちゃったんだもん」

初めて山奥の村で見かけたとき、綺麗だと思った。長い銀髪も、スラリと高い背も。その瞳に吸い込まれてしまいそうだった。彼が故郷を奪ったことなんて分かってる。でも、気持ちは収まらない一方で。きっとあの日から、彼に――ピサロに恋をしていた。

せめて私が勇者とかそんなの全然関係なかったらなぁ。神様なんてきっといないよ。いたとしたって意地悪だ。叶いっこないこの感情を、癒してすらくれないのだから、と、ため息混じりに、自身を皮肉った。
Irony
(皮肉)

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