俺は、二人の鳥を犠牲にした。
一人は赤紫色の髪をしたきれいな鳥。
肩まで届かない位置で神経質なまでに切り揃えられた髪と、死だけを希望に生きるその様がすごく印象的だったそいつは俺に殺された。
もう一人は銀色の髪をした、研究所には似合わない笑顔を持った鳥。
屈託のない笑みを浮かべるそいつは本当に自分の立場を理解しているのかと聞きたくなる程無邪気だった。
だが結局は自分の運命を変えられず、死んだ。
二人の共通点は、俺が生きる為の犠牲になった事。違うところは、対照的とまで言える性格。
一人は言った。
『君の苦しみなんて関係ないよ。ただ俺は自由になりたいから死を望むだけ。
俺達は人の幸せを祈れるほど高等な生き物じゃないだろ?』
アイツは正しかったと、俺は今でもそう思っている。
だがもう一人は言った。
『俺は誰かの役にたちたいから、カナリヤに成って世界を変えたい。みんなが、本当に、みんなが幸せになれる世界にしたいんです。』
こいつは、根本が間違っていた。
最期まで気が付かなかったのか、気付かないフリをしていたのかは分からないが、間違っていたんだ。
みんなと言っておきながら、自分の幸せが含まれない世界のどこがみんなが幸せの世界なのだろうか。
そいつは結局、答えも言わずに死んだ。
最期まで笑って…。
目を開けると、死ぬほど見飽きた白が全面に広がった。
アレだけ暴れたのだから処理されて当然か、とため息を吐く。こんな時まで嫌な夢を見る辺り俺はトコトン不幸なようだ。
「目、覚めたんか?」
声の方を向けば、裏切ったはずの医者がイスに座っていた。人手不足なのか、一緒に処理するつもりなのか定かではないが、どうでも良いことだ。
いまさら関係ない。
「鳥は勝手だ。」
「せやなぁ……。」
俺の呟きに応えたのは、イスに座っている医者の男。
応えが返ってくるとは思っていなかった俺は、もう一度医者の男に視線を向けた。肩まで伸びた髪と丸いメガネ。
男は俺を見て、イスから立ち上がる。
「それにしても、案外バカやなジブン。反抗したんやって?作り直すように言われたで。」
メガネは独特なイントネーションで喋りながら俺の横へと歩みを進め、隣りに立つと寂しそうに目を細めた。
少し瞼が赤く腫れている。
「お前さんも裏切りもんじゃろ。」
「でも俺は優秀やから、殺されへんねん。まだ利用価値があるうちは生かされとる。」
俺の言葉に肩を竦めてみせ、おどけた顔で返すがどうしたってそこから痛々しさは拭えていない。
駄目押しとばかりに男は自分の頭を指差してみせ、笑った。
死ぬことは許されへんしな、と言って。
チップのことを言っているのだと理解して、俺は笑って返してやる。
それでも裏切ったくせに、と。
医者や科学者に埋め込まれたチップの発動条件は、命令違反だ。
死ぬなと言われたら死ねない。
もし逆らって死のうとすれば一時的に気絶させられ、記憶の情報処理をされる。死のうとした事実は目を覚ました時にはきれいさっぱりなくなるわけだ。
それは裏切りでも同じこと。
「俺は天才やで?そんなもん細工してどうにでもなる。ただ、ちゃうやろ?俺が自殺なんてしてええわけがないんや。
せやからそれだけは壊さんでおんねん。
俺が死を選ぶんは卑怯やしな。」
そこでまた笑って、俺の体を縛るベルトを男は緩めた。
「助けてあげて欲しいんや。」
目を伏せたまま、それは呟きにも似た言い方だった。別に聞いていなくても構わないと言うような。
それでも、こいつは俺と似ているから。
だから俺は男の目を見て答える。
同じ思いをする奴は少ない方が救われる。
「誰を」
「ジブンが、助けたい人を」
男がそう言って、
やられたな、と思った。
全部お見通しだとばかりに笑う男に、嫌な性格しとんな、って苦笑して頷く。
しかたがない。
「遺された方の事を考えん被害妄想バカから憐れな主人を救ったるぜよ。」
これ以上、鳥に負けるのはごめんだからな。
「そうしたってや。
仁王、お前はもう自由や。」
「跡部にもよろしく言っといてな。」
笑う男に背を向けて、俺は扉を飛び出した。
そしてそれが、男と話した最後になった。
棄ててしまいたいのに
(この想いも、思い出も)
END