俺ね、白石クンの事がものっっっそい苦手なんだ。
そう呟いたのは俺の隣りに当たり前みたいな顔をして座った自称ラッキーこと千石清純だ。

頬杖を付いて朝食を無造作にフォークでつつくその視線の先には苦手発言をかまされた、これまた独特な世界感を持っている聖書こと白石蔵ノ介がいる。
別に千石が白石を苦手なのは今更カミングアウトされずとも知っているが、まぁ本人はただ言いたかっただけなのだろう。こっちをチラリとも見なければ、返事を待っている様子もない。
日頃溜まった鬱憤を埴輪にでも話しているつもりなんだろうな。だが埴輪で事足りるならわざわざ人の隣りに座らないで代用品でもメンタルコーチに借りてこい。如何にも埴輪を持っていそうな顔だ。

まぁ
「白石が苦手なんわ、分からんでもないな。」
ってのが本音だが。

「あれ?忍足クンも苦手?」
「苦手ってよりは嫌いや。」

俺の発言にようやくこっちを向いた千石はいつもは決して開かれないであろう領域まで目をひん剥いて驚いていた。そんなに驚くことか?と思いながら今度は逆に俺が千石から視線を逸らして白石を見る。

白石の周りにはいつも誰かしらが居り、笑顔が常に絶えない。まぁそういった社交性は隣りに居る千石ももちろん負けてはいないが、タイプが全く違う。

アイツは千石と違って無邪気だ。子供っぽいとかと違って、どちらかと言ったら手塚よりの無邪気。
常識がかけてるとかじゃないけど、汚いことを知らないタイプの人間。
だから、多分千石は苦手なんだろう。
計算からなる人間関係を得意とする俺や千石からしたらキレイすぎて苛つく対象でしかない。

「なんか、意外だね。」
「普通やろ。」
「そうなの?忍足クンって嫌いな人いないんだと思ってたよ。」
「親善大使になったろか?」
「ふはっ!似合わねぇー。」
「せやろか。案外いけそうやない?」
「ないない。絶対ないよ。」

背中をバシンと叩かれ、お返しとばかりにデコに突っ込みの必殺スナップをお見舞いしてやった。それでも千石は笑っていて、親善大使が随分と気に入ったようだ。
俺も俺で千石とこうやってバカな話をするのは嫌いじゃない。他の誰とも違う、似た者同士だからこその安定があるから楽だし、なにより普通で居られる。
チラリとまた横目で白石を見ると、今度は白石も俺達を見ていて(まぁ馬鹿騒ぎしてるからなぁ)何となく笑って返してやる。
別に理由などないが、社交辞令もしくは余裕の表れ?
なんて下らない事を考えながら視線を更に時計まで滑らせる。時刻は朝食終了まで残り10分を指していた。
それをいまだプレートに朝食が半分以上残っている千石に教えてやり、慌てて食べる姿を笑いながら見守ってやることにした。





事件が起きたのは朝食のすぐ後。

「ほな、よろしく。」

今、6番コートでは嵐が起きていた。
いや、見て分かるのは俺だけかもしれないが、取り敢えず大変な事になっている。

なにが大変って?
白石が千石に声を掛けたのが、だ。

笑って返してはいるけれど明るさ間に引きつってるし、出来れば他と組みたいと言う代わりに視線の動きが訴えている。
(ラッキー千石が肩なしやなぁ)
同じコートになった時点でアンラッキー千石に改名すべきだったんだ。
と、まぁおふざけはこの辺にして、誰か助けてあげないとアレはそのうちボロを出すぞ。表情に出た時点でアウト。
俺はコート違うし、6番って誰かいたか?

「えーっと、白石クン、は、俺で良いの?」
「もちろん!ダメな理由ないやろ?千石クンオモロイ子やし、一回話してみたかったんや。」
「へ、へぇ〜、それは光栄だなぁ。」

って、人が助け船を探してる間に泥沼にハマッてる。もうこれは無理だな。頑張れ千石。
俺も一応努力はしようとした。




その日廊下で擦れ違った千石は魂が抜けた様だった。



苦手な相手



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