もう駄目かもしれない。
隣りに立つ友人を見てそう思った。
濡れた前髪を弄りながら髪型が崩れちゃったよ、と笑うそいつは一応は友人で、(何故なら携帯のフォルダにはそう分類されているからだ)しかし今の俺には変に意識させる相手でもある。
そうなったのは今年の春。
やはりその時も雨が降っていた。





雨の中、置き去りにした







「や〜、助かったよ。突然降ってくるんだもんね、雨。」
そう言って千石は渡したタオルで頭を拭いた。
今日の天気予報では雨の可能性はないと言っていたのだが、どうやらそれは出任せだったようで俺達は帰り際に運悪く土砂降りにあってしまった。

「お前は何だかんだラッキーだよな。この俺様に会えたんだから。」
「ん、だね。お陰でこんなモンで済みましたよ。」
おどけながら制服の裾を摘んで見せた千石は、そのまま足を窓に向けると外を見ながら止まないかな、とボヤク。
ここは俺の部屋で、何故千石がいるかと言ったら、土砂降りの中困ってる所を見つけたから気紛れに車で拾ってやっただけ。別に何か特別な理由があるわけではない。
放っておけなかったのは選抜の誼ってやつだ。

「ね、跡部クン。暇だし遊ばない?」

千石はそう言うと、どこか艶やかに笑った。
裏が見えなかったわけじゃない。明るさまなその誘いに、挑発に乗ったのは俺だ。
きっと、それに乗ったのが悪かった。
千石が言う遊びとやらは随分と過激な大人の遊び。分かってはいたが、それでも俺は止めなかった。
いや、止められなかった。

友人の分類からは多分既にこの時点で外れていたに違いない。だが俺はそうで有っては成らない、とその事象を否定し、抹消した。
何を今更と思われるだろうが、終わるまで自分の過ちに気付けなかったのだ。しかしそんな勝手が許される筈もない、と千石からの反感も覚悟していた。
が、それに対する千石の反応はまぁそうだよね、と言っただけで随分と軽いものだったのはいまでも鮮明に覚えている。
別に気にして欲しかったわけではない。ただ、なんでかそれくらいで終われる関係なんだよな、と感慨に思ってしまっただけ。
あれからは何もなかったし、もともと連絡など取っていなかったので本当に、全てきれいさっぱり痕跡は消えた。

それこそ、本当に何も無かったかのように。
自分で消しておきながらそれを少し悲しいと思う俺は随分と身勝手だ。


もう二度と会わない。
誓いにも似た、決意だった。


なのに、
今隣りには千石がいる。
やはり濡れた髪を弄りながら、目が合うとへらりと笑って見せた。
千石は何も言わない。
ただそこに居るだけ。
そんな関係を作ったのは俺で、それに対して不満を抱くのはあまりにも身勝手な感情だ。分かっている。だがそれでも体の中でモヤモヤした何かが彷徨う。渦巻く。
隣りにいる温もりを抱き締めたくなる。
俺はどうしようもないバカだ。


結局否定したかったのは間違った事象じゃなく、俺の気持ちだったなんて情けなくて言えやしない。


「雨、止まないね。」
「ああ。」


囁かれた懐かしい声を脳裏に刻んで目を閉じる。まだ隠せる筈だと過ちを繰り返しながら、俺は相打ちをうった。



きっと明日は晴れるから、過ちごと雨の中に俺を置いて行こう。
友人で、いる為に。






雨の中、置き去りに
した
(伝えない想いを秘めた俺)


END
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