吐き気と共に込み上げたのは涙。
どうしようもなく気持ち悪い。苦しい。切ない。恋しい。憎らしい。
訳が分からないくらい気持ちが入り乱れる。

それはいつも君のことを考えるとやって来る制御出来ない感情の渦だ。
なんでこんな風になるのかも、なんでこう成らなくちゃイケないのかも、全部が全部分からなくて、余計にぐしゃぐしゃになって。知らないうちに涙が流れた。
俺はいつからこんなに情緒不安定に成ったのだろう。昔はまだ泣かなかった。こんなにも弱くはなかった。
なのに、いつからこう成った?
開放されたいのに、どうしたら良いのかも分からない。
原因は分かっているのにそれを取り除く方法は分からなくて、結局俺に出来るのは極力彼の事を考えない様にする事だけ。
それでも限界は有る。
常に彼を考えない様にすればするほどに、彼は俺の中に入って来て、掻き乱してはおかしくする。

それはそれは恐ろしいほどに








答えがなくて










ギラギラと光る太陽を睨み付けて東屋の上に寝転がった。
暑い。
真夏の日差しほど人のやる気を奪うものはないだろう、と俺は常日頃考えている。
だけど南はそれに対して否定的だ。彼が言うにはお前はいつだってやる気ないだろ、だそうです。
失礼だよね。俺ほどやる気に満ち溢れている人間はそうそういないぜ?
確かにだらけるの好きだし、夏はちょっとアイス買いに行っちゃうけど、それは夏の暑さが悪いわけで決して俺のやる気が無いとかじゃないんだ。
そんな言い訳を並べながら溜め息を吐いた。
きっと帰ったらまた南に怒られる。
これも全て夏の暑さの所為だ。

「あーぁ、なんで夏は暑いんだろう。」
「藪から棒に何を言ってんだ、お前。」

ただの愚痴だった。
返事なんて要求していなかったし、そもそも俺は一人だと思ってたから呟いたセリフだったのに、予期しない場所から返事は返って来た。
俺は慌てて飛び起き、声の方を見る。聞き覚えのある声は東屋の下、すぐ近くから聞こえたから屋根から覗き込めば十分に見える筈だ。

「お前、暇そうだな。」
「あ、とべクン。」

ほらやっぱり。
覗き込んだ先には、声質から予測出来た、(だけど居て欲しくはなかった)彼が居た。
逆さの彼は今日も元気そうで何よりだけれど、俺の心臓は体に悪いほどドクドクと脈打っている。この歳で救心デビューとは泣ける話だ。

「やあ、こんな所でなにやってんの?」
「別に、ただ散歩してたらお前を見つけた。」
「あ、そう…。散歩ね。」

良いんじゃないかな、健康的で。そう言いながら笑って見せる。
友好的な人間ですアピールだ。上手く笑えているか否かは定かでないが、取りあえず今動揺している事実だけは何としてでも隠さなくては。
だって理由を聞かれたとして、俺には答える術がない。俺自身に分からない事を答えるなんて無理に決まっているじゃないか。
だから誤魔化す。
口を吊り上げる為には重力だって味方に付けてやる。でもやっぱり限界はあるから早くどこかへ行ってくれないだろうか。
じゃないと頭に血は上るし、心臓は爆発しそう。

「いつまで逆さでいるんだ。」
君が居なくなるまでだよ、とは口が裂けても言えない。
「下りるの、面倒だし。」

にこり、また笑う。
跡部クンは少し不機嫌そうだ。

「下りて来い。」
「…………やだよ、俺ここが好きなんだ。」

嘘ではない。
ここは俺の女の子ウォッチング特等席で、理由が不純であっても嘘じゃないのだけは確か。
だから別に俺は悪い事はしていないんだぞ、とひ弱な心臓に話しかける。これ以上ドクドク言わせていたら、救心のお世話になる前に心臓爆発で俺はお亡くなりだ。
それは嫌だし、避けたい。
なのに、

「なら俺がそこに行く。」

なんでそう成るのだろうか。
跡部景吾と言う男は難解に見せて置きながら実に単純明解に出来ている。それに対して俺は身勝手な理由だが舌打ちを一つした。もちろん聞こえないように。
有り得ない有り得ない有り得ない。
ふりまわされっ放しだ。

「危ないから、俺が下りるよ。」

なんで妥協してやらねばならないんだか。
疲れる。
ここから下りた瞬間にきっと俺は爆発して死ぬんだ。いいよいいよ。飛び散る俺の肉片でも見て後悔すれば良いのさ。
自分はなんと愚かなんでしょう、って懺悔しやがれコンチクショウ。
もはや俺の脳内は趣旨を愚痴に移行したようで、次から次へと跡部クンへの文句が浮かんでは消える。
しかしどんなに文句を言った所で、下りなければならないのは変わらなくて、俺をジッと見ている跡部クンはまさに死刑執行人その者にしか見えなかった。
俺に明日は来ないのか。
そう思ったら少し、南に親孝行じゃないけど南孝行して置けば良かったな、って思った。
うん。少しだけど。
きっと南なら泣いて喜んでくれる筈だ。

そんなとりとめの無い思考を止めたのは彼の行動だった。なにを勘違いしたのか、下りる俺に手を差し出して来たのだ。
きっと延々と思考していた所為で下りれないと勘違いされたに違いない。
でもね跡部クン。俺は一人で下りれるんだよ。ハイジャンプだって出来ちゃうよ?
君の手を借りなくても大丈夫なんだ。
いつも俺は自分で上って自分で下りるんだから。

なんて、そんな事を思いながら俺は無意識に跡部クンの手を握っていた。

「……ありがとう。」
「どう致しまして。」

笑う彼に、やっぱり救心を買わなくちゃ、って考えながら自覚した。


俺、きっと恋をしてるんだ。





答えがなくて
(見つけたとたん、また次の問題)



「跡部クンは男だよね。」
「お前頭平気か?」



END

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