なんでか分からないけど、涙が止まらなかった。
暗い室内。

明かりはない。

でも月明りすら眩しく、目に染みて、やっぱり涙が流れる。

苦しくて、切なくて、胸が締め付けられて、

だけどなんでこんなにも涙が出るのか、その理由だけは結局分からないまま、俺はベッドの上で丸まって泣き続けた。



いや、分からないフリを、したんだ。






もしも






跡部クンと別れたのは一週間前。
俺がフった。
耐えきれなくなって、さよならって一方的に彼を傷つけた。
許されない事だろうし、許してだなんて言わない。
それでも、自分からフっておいて何を言うって感じだけど、俺の中にはもやもやとした空しさや、悲しさや、息苦しさが混ざりあった気持ちが渦巻いている。
後悔してないって言ったら嘘になる。俺はあの日からずっと後悔ばかりをしているから。
だけど、どんなに未練が有ったとしても戻れはしない。
だって俺は傷つけた。
一方的に別れを告げて、気持ちを押しつけて、だけど怒らなかった彼。
優しい人。
大好きだったんだ、君が。
だからこそ、怖かった。
好きでいることも、この先君無しでは生きられなくなる事も、全部全部怖かった。
変わる事が、恐ろしかったんだ。
ごめんなさい。
今更謝っても許されないのは分かってるし、許してなんて言うつもりはない。
だから君のいない場所で、聞こえない所で、
謝り続ける。
卑怯なのは分かってる。
自分が傷つけたくせに、自分だけが楽に成りたくて謝ってるんだから。
俺は最低最悪な人間だよ。

でも、でもね、跡部クン。
君を好きだったのは本当だったんだ。
心の底から愛してた。
失いたくはなかったよ。

それでも君を傷つけた俺をどうか許さないで。臆病な俺をどうか軽蔑して。
君が背負う事はないんだ、って伝えられたらソレが一番良いんだけど、俺はもう君には会えないから、だから、だからどうか君が背負わないようにと祈るしか出来ないけど。
毎晩祈るよ。
泣いてしまうけど、
やっぱり君が好きだけど、
全部隠して祈るから、


幸せになって


俺達は恐がりで、臆病で、だからこそ同じ道を歩めなかったけど、
もしも君か俺のどちらかが勇気を持てたなら、変わっていたのかもしれないね。



なんて、そんな事を言ったらやっぱり君は笑うだろうか。





もしも

(平行世界の俺たちへ)




「って夢を見たんだ!なんか起きたらすっごい泣いてるしね、リアルな夢だったんだよ。」
『そうか、きっとそれはテメェの涎だ。くだんねぇ事で夜中に電話してくんなバカ。』
「だってだって、本当にリアルだったんだ。だから、」
『不安になるくらいなら涎拭いてさっさと寝ろ。』
「涎じゃないもん!」

あぁそうかよ、って言った跡部クンの声には真剣味がなくて、心底眠そうな響きだ。
時間は夜中の三時。眠いのは分かる。
だけどもう少し真剣に聞いてくれても罰は当たらないと思う。
まぁ電話に出てくれるように成っただけマシだけれども、人間は貪欲だから次から次へと叶えたい願いが増えて行くのだ。
それに、すごく不安に成ったんだよ。
あんまりにもリアルなその夢は、好きすぎるゆえに別れを決断した。
俺には到底理解出来ないけど、だけど、夢の中の俺が言う好きが事実で、本気なのだけは痛いほど分かって、分かるからこそ別れた理由に納得出来なかった。
俺だったら絶対にあんな事しない。
跡部クンに別れたい、って言われても縋り付いたって別れない。
醜くても、汚くても、絶対に離れない。

『千石』
「なに?」
『泣くな』
「泣いてないよ。涎だよ。」

そう言ったら跡部クンは笑って、そうか、とだけ言った。
うんそうだよ、って返して俺も笑う。

大丈夫、あれは夢。
だって君は電話を掛ければ出てくれるし、会いに行けばキスをくれる。

「跡部クン、大好き。」
『知ってる。』




END
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