空を見るとそこには鳥がいて、自由に飛び回る彼を僕は羨ましいと思った。青の中に溶けそうな淡い水色の翼は太陽にも負けない輝きで羽ばたいており、とても美しい。
彼は有翼人だと言った。
僕は人間だった。


「鳥に成りたいかい?」
ある日彼は僕にそう言って微笑んだ。
それはそれはうさん臭く。

「望めば成れるの?」

でも僕は手を伸ばす事を止めようとは思わなかった。何故なら僕は僕が思うよりもずっと鳥に成る事を望んでいたから。

「成れるかもしれないよ。」

そうして一層、彼は笑みを深くする。








鳥の夢







「おい千石!もう授業終わったぞ。」

そう言って俺の頭を叩いて起こしてくれた友人は、いっそ何故そんなにも地味に見せる事が出来るのかと不思議に思うド派手な、もとい変な髪型を携えて立って居た。

「おはよう、南。」
「おはようじゃねぇよ。ほら、部活行くぞ。」
「うん。」

南は面倒見が良くて、クラスも違うのにいつも俺を迎えに来てくれるとっても優しい奴。
まぁその理由がサボらせない為、って所は目を瞑っといて下さい。
その方が南の好感も上がるし俺の品位も下がらない。まぁ、品位なんて無い気もするけどそこは気分でカバーだ。

「ねぇ南。」
「なんだよ。」
「俺さぁ、夢を見たんだ。」

また女の子にハーレムして貰ったか?と茶化しながら言う南に笑って、夕方色に染まった窓の外を見た。
準備が早いのか、サッカー部がチラホラと活動を始めているのが見える。

「残念ながら色気ゼロでさ〜、やる気でないからさぼって良い?」

そんな事を言ってみたら殴られた。ポカンっ、て。痛くはないけど痛い、なんて文句を言ってみる。
南はあっそ、としか返さなかった。
冷たくなったな。

「夢、ね。鳥を見たんだよ。」

青い空を飛ぶキレイな鳥。
鮮明に覚えているのはそのシーンだけなのだが、すごく心に残っている。
強烈な印象として網膜が記憶してる。
まぁ、夢だから本当は目に焼き付くわけないんだけど、気持ち的にはそうなのだ。

「鳥の夢を見たら願いが叶う、って本当かな〜?」
「迷信だろ。」

バッサリ
一刀両断された。
夢も希望もない男が居たもんだ、って溜め息を吐いてやるとまた殴られた。
最近南が暴力化していると思うのは俺だけ?

「じゃあー、今年は全国行けないねぇ。」

嫌味と茶化しと報復とを混ぜ合わせて言ってやると、何故か南はキョトンって顔して俺を見た。

「全国は願うもんじゃないだろ。自分達の力で行くんだ。」

多分、南にとってはさも無いことで、それが当然なんだろうけど。
何だか笑いが込み上げて来た。
つまりは願う前に努力しろ、ってやつだろう。

「南らしいね。」
「普通だろ。」
「うん。だからきっと地味なんだよ。」
「っ千石!!」

でもそれで良いんだと俺は思うよ?
南が地味だからこそ、俺は俺でいられる。
だって間違いを間違いだって素直に言えるのはきっと君だけだから。

「全国かぁ、行きたいね。」
「毎日練習サボらなきゃ行ける。」
「堅実に?」
「あぁ。」
「でも地味にはなりたくない。」
「お前はさっきから地味地味言い過ぎだ!」

だって事実じゃん。
そう言ったらまた殴られた。
どうやら南は本格的に暴力化したらしい。

「ぶったら豚によく似てる、って知ってる?」
「は?」
「豚に結婚申し込まなきゃね。」
「いい加減にしろバカ!」

長い廊下に響く俺の笑い声。
青春してる。
なんとなくそう思った。



鳥の夢
(願う前に努力しろ)
(南ってお父さんみたい)




END
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -