「ねぇねぇ、スイカの種って埋めたらスイカになるかな?」

無邪気さを隠さない声で千石はそう言うと、口に含んでいた種をテラスから発射しだした。
汚いから止めろといくら言っても聞かない大バカを、ただ眺めているのも阿呆らしいので俺もスイカを口に含む。水っぽいスイカからは大した味がするわけでもないけれど、それでも付き合いで食べてやれる程度にはこういった庶民の味とやらにも慣れてきた。
なぜ慣れるほど食べなければイケないのかと疑問にも思うが、千石に何故は通用しない。

スイカも何故かまいど家へと抱えて持ってくる始末。千石が言うには親戚のおじいちゃんが沢山送ってくれるのだとか。
しかしソレをわざわざ持ってきて俺と食べる理由がどこに有るんだか今だに理解不能だ。
つまり千石を理解しようというのが無謀なのだといつしか結論が出た。

「どうせならスイカ畑とか作ってみたいよね〜。」
「お前、絶対植物枯らすタイプだろ。」

うっ、と言葉を詰まらせるということは図星だろう。謎の行動をする千石だが、こういったときだけは分かりやすい。
いつも分かりやすければもう少し苦労も減って、付き合いやすい相手になるのだろうに。

「確かに小学生の頃、結局一度も植物観察日記を達成出来たことはないけども!」

けどもに力を込めて叫ぶ千石を眺めながら、こいつの小学校はそんな事をしていたのかと植物観察とやらをする千石を想像した。
千石のことだから、なかなか芽吹かない植物に飽きて毎度挫折していそうだ。

「相変わらずお前の小学校は面白いことをやってるな。」
「いやいや、大抵の小学校はやってるから。跡部クンのところが特殊なのよ?」

ちっちっちっ。と舌を打ちながら人差し指を振ってみせる千石を脇目に、俺はテラスの下を覗いた。
見えるのは広い庭。

一度千石に視線をやり、また下を見つめ、丁度なにもない緑の敷地を指差して見せた。
千石が何の断りもなしに種を飛ばしまくっている辺りだ。

「作ってみるか。」
「へ?なにを?」
「バカか。畑だ。スイカ畑。」

お前が言い出したんだろう。と睨みつけてやれば、千石は目をパチクリと瞬かせ、それから万遍の笑みを浮かべてみせた。
ああ、つい喜ばせてしまった。なんて後悔をとってつけて。
親への言い訳を頭に並べた。




広い庭とスイカ畑。
(観察日記とやらもやってみよう)


end
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