「愛とは一方通行なものだ。どんなに想っても大抵は通じてない。」

それは現在進行形で付き合っている人間を目の前にして主張すべき事なのか。そんな常識を訴える思考に対して虚しさを感じるのは常識なんて何の役にも立たないからだろう。
千石を相手に常識なんて考えるだけ無駄だ。

「なら想うだけ無駄かもな。」
俺は頬杖をついて片手に持った文庫を読みながら返事を返したが、それに対する千石の答えは聞き流した。
会話をしても虚しさは募るだけだ。なら勝手に喋らせておくのが一番良い。

それこそ本当に、愛が一方通行だからこそ生まれるすれ違いなのかもしれないが。
なんて自分で考えておきながら笑えた。虚しい…本当に。そんなすれ違いをするなら一緒にいる必要なんて無いだろ。
好きなら好きでいい。シンプルな回答をするのはいつだって千石の役目だ。
それが何をとちくるって複雑な言葉を俺に言うようになったのか。
もう覚えていない。むしろ最初から俺は分かっていなかったのかも知れないが。
ああ、でも、本当に、
すれ違うならば俺達は何故一緒にいることを望むのか。

「ねぇ」
「なんだよ」
「本当に無駄だと思った?」
不意にかけられた声は妙に静かな声で、俺は少しも読み進めることができなくなった文庫を閉じて千石を見た。

「なんて顔してんだ」
「どんな顔してる?」
「不細工な顔」
相変わらず手厳しい!なんて大袈裟にうなだれた千石の顔は演技ではなく眉が下がっている。
捨てられた犬はきっとこんな表情をするのだろう。
泣きそうな、縋りたそうな、そんな顔。

「まだ変な顔だぜ」
「やーん。キヨ恥ずかし〜」
そんな顔をする千石にすら優しい言葉をかけられない俺が茶化すように言えば、今度は顔を両手で覆って隠してしまった。
そうしたまま今日を過ごすつもりかよ。と言おうと口を開くと、先に千石が顔を手で覆ったまま言葉を紡いだ。

「………こうゆう時にね、思うんだ。俺の気持ちはどのくらい届いてるのかな、って。」
表情は当然見えない。
くぐもった声だけが千石の感情を伝えている。
「俺の気持ちの半分も君には届いていない気がするんだ。」
それは多分初めて聞いた千石の本音で、言葉が重たく俺にのしかかる。
半分も。
あまりに図星だ。半分も通じていない。なぜなら俺は千石を理解する努力なんてしていないのだから当然だ。
一人前に理解を求めて、それでも相手を理解しない。
それが、俺だ。

「バカ言うな。」
だがそれを認める強さを俺は持ち合わせていない。あるのは高すぎるプライドばかり。
人を表面的に理解することは出来ても内面まで上がり込んで理解する度胸なんてない癖に、強い言葉で着飾ることばかりを選ぶ。

「そうだね」
ようやく手を退けた千石は俺の言葉に対してへらり、といつもの笑みを浮かべて見せた。
いつも通り情けない顔。
感じるのは確かな虚しさ。


一緒にいることを望むのは何故なのか。
その答えは今だに俺達の中にはない。

ただ望むのは千石の想いが半分くらいは分かるようになれたらと。



貴方を理解する時間をください



END
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