部室の扉を開けようとしたら叫び声が響いた。
音源は声からして多分金の髪をした足の速い子。

それは分かるが何故自分がいま開けようとしている扉の中からそんな声が響くのかがまったくわからず、ノブに手をかけたまま首を右に傾ける。
(どげん…したのか)
もしかしたら事件でも起きたのでは、とまで考えが至ったところで今度は後ろから明るい声が聞こえた。取りあえず呼ばれたのが自分であるようなので振り向いて声の主を探す。が、声の主は思ったよりも近くにおり、細い瞳で眼鏡のレンズ越しに俺を見ていた。

「今日は定時できはったん?」

「この間…部長さんに怒られたばい」

そう、何となく寄り道をしてしまって部活に遅れたら綺麗な顔立ちをした部長さんにこっぴどく怒られたのだ。だから今日はなるべく早く来ようと努力したのだが…結果的に早くと言うよりは普通の時間になってしまった上に何やら部室からは変な奇声が上がっている。

「蔵りんは怒らせたらあかんのよ?いてこまされるで」

くらりん?いてこま?
謎のワードは九州と大阪が違う鈍りを持っている為に生じる言語の違いだろうか?

「部室、また騒いどるん?あ〜それで入れんで止まってはったんや?」

うん。まあ、そんな感じだ。
しかし先程からすごく騒がしいのに目の前の彼はなんで気にしたそぶりもないのだろうか。あんまり珍しいことでもないのかな。
それに名前…教えて貰ったはずなのに思い出せない。確かとても可愛い名前だった気がしたんだけど。

「小春ぅううう!」

あ、そう。小春だ。

「あらやだユウくん。朝からうっとおしい!」
「そんな冷たいところもかわええで!」

随分と距離のある場所から声がした気がしたのだが、振り返った時にはヘアバンドをした子が小春くんに抱き着いていた。
正に神速。なんて思って眺めていればヘアバンドくんが今更だけれど俺の存在に気がついたらしく、驚きの表情を浮かべながらマジマジと俺を見つめた。

「珍しいなー。お前今日は部活でるんか」
「ん。部長さん怖かね。」
「はは!せやろな!白石いつもめっちゃ怒ってんで」

先程小春くんとしたような会話をもう一度していると、今度は部室のドアが勢いよく開き、中から噂の部長さんが姿を現す。
何やらお怒りの様子にこの間こっぴどく叱られたのを思い出し、部室前にいたのも遅刻とみなされて怒られるのだろうかと冷や汗を流した。
部長さんは、本当に、本当に、怖いんだ。

「あ、小春に一氏…と、千歳?なんやちゃんと来れたんか!」

だが予想に反して部長さんは俺を見つけた途端もの凄く明るい顔をした。
それに面食らっていると部室の中からは続々と見覚えのあるメンバーが出て来て、その中には奇声を上げていた金髪の子もいた。

「今日、は、遅刻じゃなかよ」
「偉いやないか!いつもその調子で頑張れや。」

ニコニコ笑う部長さんは随分かわいい。
まるで昨日とは別人だ。

その違和感に戸惑いながら会話をしていれば部室から出て来た部員達にも口々に珍しいな、と声をかけられた。
こんなに珍しがられる程きていない自覚はなかったが、部長さんもあれだけ怒っていたし、自分が思っている以上に来ていなかったんだろう。

九州にいた頃は結構これが普通だったけれど、関西は違うようだ。と、勝手になっとくしながらなるべく頑張らないとまた部長さんに怒られそうだな、なんて考えて笑ってみた。








マイペース
(いまでも白石に怒られるばい)




end

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