縋るような瞳で部長は俺を見つめていた。
何故、とか
そんな言葉が喉から競り上がるよりも早く出口が部長の口によって塞がれ、行き場を失った言葉は空気になって合わさった唇の端から漏れてしまう。
今日の部長は変だ。
そう思うのに、求めてくる体を跳ね退けられず、欲望が叫ぶままに俺は細い腰を抱き寄せる。
だって俺はまだ若いから。
仕方ない。
そんな言い訳を並べて深く深く求めあう。
部長もそれを望んでいるような気がしたから。
だけどコレは

「情欲?」
目の前で首を傾げながらユウジ先輩はそんな事を言った。
この人が首を傾げたって微塵も可愛くないので俺は視線を逸らしてユウジ先輩の発言を否定する。
だって情欲って言うのは異性同士に使う言葉だ。俺と部長は同性だし、意味が違ってくる。
だけどそもそも同性に適用される言葉の方が少ないのだから、異性に適用される言葉だと否定するのは違うだろ、といつにも増して真剣な表情でユウジ先輩は言った。
でも遠回しな言い方は少し解り難い。
はっきり言えば良いのに。
「俺が部長に欲情したんは事実ですけど、それは異性に抱く感情とはちゃいます」
これは言い訳。
わかってる。
同性の恋を綺麗にしたいだけだ。性欲で付き合うのは異性だけだと勝手に決め付けて自分達の関係を美しいものにしたいだけ。
「せやったら俺に相談する必要ないやんか」
お前は後ろめたさを感じたから俺に相談したんやろ。とハッキリ言われて、グサグサと刺さる矢に俺は黙って堪えた。
後ろめたさはいつだってある。
それは同性であるが故に。
それは相手に欲望を抱いてしまうが故に。
理由はたくさん。
だからいつも言い訳をしながら部長に触れていた。
汚してしまう事を快感に塗り替えて、拒絶されないことに胡座かいて。

ユウジ先輩は机に肘をつくとため息を吐いて、お前なぁ、と続けた。
黙ってしまった俺の対処に困っているんだろう。
この人は結構冷めてる人だけど、やっぱり優しいから俺を見捨てられずに悩んでいるんだ。

「ユウジ先輩は小春先輩に欲情せぇへんのですか」
「そら普通にするやろ。好きやもん」
バカみたいにアッサリ。ユウジ先輩は何の迷いもなく答えを口にした。
この人が言うと生々しい。
だけど迷いのないその言葉を俺は尊敬する。
だって俺がウダウダ悩んでいることをこの人は迷いなく肯定するだろうから。
欲情と好きがイコールだとしても、考え方一つでこんなに違うものか。

「あー。なんや悩んどるほうがバカみたいに思えましたわ。」
「なんやねん」
「いや、ほら、あれです」
「?」
「ありがとうございます」
俺にしてはかなり素直にお礼を言ったからか、ユウジ先輩はポカンと口を開けて俺を見てから思い出したかのように胸を張って感謝しいや!と言った。
この人もたまにカワイイ所があるなと思う。

でもやっぱり部長が一番カワイイ。
別に惚気じゃない。真実だ。

「俺、部長が好きです」
「はいはい。本人に言えや。」
呆れてため息を吐きながら手をヒラヒラと振ってみせるユウジ先輩に背を向けて、俺は部長を捜して駆け出した。
いまなら素直に言える気がする。



あなたが好きですって。








若者だもの
(それも青春)



end
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