きっかけはなんだっただろう。
もう覚えてない。
多分すごくくだらなかった。だから忘れたに違いない。
そのくだらないきっかけで、何時間も俺達は殴り合った。
最初に殴ったのは跡部。
俺は先に手を出さないと心に誓っているからそれは絶対だ。
なんで殴るほど怒ったかなんて知らない。
跡部は短気だし、口で負けるとすぐに手が出るからこんな殴り合いは日常茶飯事なわけで、きっと理由なんて関係ないのだろう。
とりあえず体中がミシミシ言ってて痛いのは確か。口の中も痛い。血の味がする。
こんな関係に意味があるのかな、っていつも思うのに結局続けているのは何故なんだろう。きっと跡部も疑問に思ってる。
終わらせることが出来ない理由はなんなのか。

俺は横たえていた体を起こして跡部を捜した。どこで死んでるかと思えば彼は悠々とソファーに座っていて、カーペットのお陰で冷たくはないが、平らな場所で寝転んでいた俺なんかより全然楽そう。
さずがお坊ちゃま。
いつだって憎々しいね、君は。

痛む体に鞭打ってソファーへと足を動かしながら跡部の名を呼ぶ。返事はないけど息はしているから生きているのは確か。
死んでればいいのに。
なんて。
嘘だけど、ちょっとだけ本気。

もう一度名前を呼べば跡部は顔を覆っていた腕を退けて俺の顔をみた。途端に皺が眉間へと集まるけれど、そんな表情をしながらも跡部が手を伸ばしてきたのでその手を取って俺もフカフカのソファーに腰掛ける。
やっぱり床よりソファーだよね。

跡部の腫れた拳に擦り切れた手を乗せながら、隣の鉄臭い体へと体重を預けた。低い呻き声は多分俺が傷口に寄り掛かった所為だろう。
でもお互い様だし気にしない。
俺だって寄り掛かった時に当たる肩が痛いんだ。
それでも温もりに触れたい気分なんだからいいじゃん別に。
それに跡部も側に居たいから俺の手を握ってるんでしょ?
いつもならしないくせにね。

きっと痛みが感情を煽るんだろう。
感傷に浸るのはらしくないもん。

「なあ」
低い声が語りかけた。

「なんでなんだろうな」
それはなんだか悲痛な色を持っていて、俺は目を閉じてなんでだろうね、って返す。
跡部はそのまま黙ってしまったけれど、言いたい事はよくわかるよ。
さっき俺が考えていたことを君も考えていたんだろう。
この関係に意味があるのか、とか。色々。
君は優しい人だから、きっと俺には理解できない感情に渦巻かれて、罪悪感で潰れそうになって、俺に対して優しく出来ない自分を攻めているんだろうね。
時々そんな君が可哀相になるよ。
背負わなくていいものを背負う君はいっそ滑稽だから。
でもそんな君も俺を可哀相だとか思っているんだろうね。
だから世話焼きの延長で俺を側に置いてしまったんじゃないのかい。
なんとかしてやりたいって、思ったんだろ?

愛とか恋は難しい。
いっそ情欲のほうがわかりやすくていいや。
こんな捻くれた関係、壊しかたも守りかたもわからないよ。

「跡部くん」
名前を呼べば手を強く握られた。
それは珍しく熱を孕んだ手で、多分腫れている所為なんだろうけど、君が生きていることの証明に感じた。
体温を通じて感じる君が俺は好きだよ。
一緒にいる理由は曖昧で、いっそ同情にも似た関係だけれどそれでも確かに俺は君を好きだと思う。
どんなに傷つけあったとしても。

ねえ、跡部

「すきだよ」

君は

「…ああ」

君はどうなんだろうね。
俺の言葉に返事を返しながらも、手は強く握られたままで、声は震えていた。
だから俺は閉じた目を開かずにただただ手を握り返してあげることにした。
答えはいらない。
だから多分一生聞かないと思うけど、それでも君が側に居てくれる間は愛というヤツを信じていよう。
たとえ世話焼きの延長でも、そんなもんさと笑ってみせよう。

だってその方が俺らしいでしょ?










庇護的恋情

(僕らは恋をしらない)






END
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