「足、痛むの?」

千石はドアの前に佇んだまま、ニコニコと絞まりのない顔で俺に声を投げかけてきた。
つくづく人を煽る奴だ。
あの入江って高校生に少し似ている。
いや、あそこまで表情を作る事に長けてはいないか。ただ同じ人種なのは間違いないだろう。
千石もテニスの戦略がまだ稚拙なだけであの高校生と同じタイプ。だから食わせ者だとか言われているんだが、俺は対戦したことがないから実際の強さはあまり知らない。
端から見ている限りでは油断大敵ってところか。
この合宿では対戦している姿すら一度もみていないし、正直実力は解りかねる。

「何の用だよ」
「心配だったからちょっと具合を見に来てあげた。」

さらりと言ってのける言葉を俺は鼻で笑ってやり、止めていた手をまた動かした。さっさとテーピングを済ませて練習に参加しなければ。
この合宿で得ることは確かに多い。だからこそ休んでいる隙など本来はないのだ、が千石の場合は違うのか今だに医務室から退室する気配はない。
それどころかジッと俺を見ているだけで動こうともしない。
俺の答えでも待ってるのだとしたらマヌケだが、その可能性はまずないだろう。
あの笑い方で質問してくる時は大概あいつの中で答えは決まっていて、回答に意味はないんだ。それくらいは分かる。伊達にJr.選抜からの付き合いじゃないからな。
だが分かるからこそ分からない。
千石は何を求めてソコにいるのか。

「練習に戻らねぇのかよ」
「……」
「おい」

人の質問には答えろ。無視すんな。そう言おうと振り返れば相変わらずドアの前に突っ立っている千石が、今度は真剣な表情で俺を見ていた。
その所為で言葉は喉の奥へと帰って行く。

「君は立派だね」
「は?」
「約束は破らないし、屈服しないし、自分のプライドだって捨てて見せる。」

おいおい。今度はなんだ。なんで突然そんな話しになる。
千石は怒っているようにまくし立てながら、表情だけは変えることなく俺をみている。それは無表情に近い色を帯びていた。
何を怒る?
何を、何をそんなに

「俺はそんな君が嫌いだよ」
「なんのカミングアウトだ」
「いや、ほら、これだけは言っておきたかったんだよ。なんとなく。」

どんななんとなくだバカヤロウ。
言い切ったからもういいや、と医務室を出ようとする千石に俺は力一杯包帯を投げつけてやった。





それは理想的だ
(理想空想そうそう)



END
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