※並木さんの幼なじみ設定をお借りしております




南が女の子に告白されたらしい。
千石はそう言って俯いたままジュースを飲んだ。
俺は話を聞きながらついにこの時がきたか、なんて悠々と思考を巡らせている。
何故かって?
だって俺は千石が好きだ。
しかもずっとずっと前から。
でも千石には南っていう好きな人がいた。
だから応援はしていたし、こうやってマックで恋愛相談を受けるのも日課だったわけ。
傷つかないわけじゃないさ。好きな人に恋愛相談されるのは案外きついし、千石が俺の事をちっとも恋愛対象として見てないんだって言われてる様で楽しくなんかない。
それでも良いこともある。
千石が男同士の恋愛に対して否定的じゃないのが分かるってことと、どれだけ俺に心を許しているかが分かるってこと。
それは俺にとって大いに救いだ。

でも南ってやつは完璧なノンケで、千石は完全に不利だった。だから俺はいつかこんな日がくるんじゃないかって思ってたわけです。

「ね、ジロちゃん」

俺がそんな思考を巡らせていると千石が泣きそうな顔でこっちを見た。
でも泣いたりはしないんだろうな。
そんな所が好き。
守ってあげたくなる。

「俺はどうしたらいいのかな」

昔から、この想いだけは変わらないんだ。

そう。
昔から。
出会ったのは本当に小さい時で、その時はまだ千石を恋愛対象として見たりはしてなかった。
ただ俺は特撮が大好きでヒーローに憧れていたから、あの頃は俺よりも小さかった千石を守ってあげる対象として見てた。
千石は泣き虫で、転んだだけで泣いちゃうような子だったから余計に守ってあげなきゃって思ってたんだ。
それが今では少しも泣かない子になって、俺に頼る回数もすごく減った。
だからこそ、恋愛相談を受けるだけでも俺は割と嬉しかったりするんだ。
複雑な心境だけどね。

「千石はさぁ、どうしたいの?」

今は俺よりも大きくなってしまった大切な人を見つめて、ポテトを食べながら聞く。結局は千石自身が決めなくちゃいけない事だし、俺は恋の成就までは素直に応援できない。
南って奴がその女の子を選ぶのならば万々歳とは言えないけど願ったり叶ったりではあるわけで、俺ってば随分と酷い奴になったもんだ。
ヒーローに憧れていたのは遠い昔。
もう戻れやしない。

「どうしたい…って…」
「邪魔したい?」
「………俺は………っジロちゃん意地悪になったよね」
「意地悪って…心外だC」
「だって言い方冷たいし…昔は名前で呼んでくれてたのに今は名字じゃん」

それはあんまり関係ないと思う。
そう俺が文句を言っても千石は関係あるもん!と変に意地を張ってソッポを向いてしまった。
確かに俺は昔、千石のことをキヨって呼んでいた。でも恋を自覚してからは何だか気恥ずかしくなって、今更なのに名前を呼べなくなったんだ。
そりゃあ昔はよくなんで?と無邪気な瞳で攻められたけど、文句も言わなくなったしいい加減千石自身も馴れたんだと思ってたんだけど。案外根に持つタイプの様だ。
でもだからと言ってやっぱり今の会話には関係ないよね。

まあ関係ないついでに言わせて貰えば拗ねた顔も可愛いなぁ。
なんて考えてる場合じゃないか。相談してもらえなくなってダメージを食うのは俺なんだからご機嫌を損ねてる場合じゃないって。
でも多少言い方が冷たくなるのは大目に見てほしい。だって好きな子が恋愛相談をしてくるんだぜ?そりゃあ冷たくもなるよ。
なぁんて、自分の想いを伝えたわけでもないのに思うのは身勝手だよね。

とりあえずゴメンと謝って千石の顔色を窺うと、あんまり納得できていない表情をしながらも口を開いてくれた。

「…………ジロちゃんはさ、女の子に告白されたらどうする?」
「んー、好きな子だったら付き合うんじゃない?」

千石が好きだから断るよ。なんて言えないしふざけると更に拗ねそうだからとりあえず妥当な解答をしておこう。
まあ好きな子は男の子だけど仕方ない。
せっかく話を再開してくれたのに水を差すのはマズイしね。

「知らない子だったら?」
「断る」

好きな子いるもん。

「お試しとかしないの?」

そう聞いてきた千石の表情はとてもとても不思議だった。
なんて言うか、心底ビックリって感じの顔してたから。

「千石はお試しするってこと?」
「……しないの?」

両手でジュースの入った紙コップをいじっている千石の表情は心底不安げだけれど、口から発しているのは爆弾発言だ。
好きでもないのにお試しとか有りなの?
そんなの初めて知った。
しかも千石はお試しで付き合っちゃうってことでしょ?

じゃあ、

じゃあもし俺が付き合おう?って言ったら付き合ってくれんのかな。

でもそうだったら少し嫌だなぁ。
だってそれだけ千石にとって俺が軽い存在である証明になっちゃうし、絶対心が痛いもん。

「俺はお試しなんてしないよ。一途だもーん。」
「お、俺だって一途だよ!でも付き合ってみればその子を好きになれるかもしれないじゃないか」
「千石は諦めたいってこと?」
「だって、俺は男だ。南とは一生かかっても幸せになれない。」

やっぱり泣きそうな顔。
でも涙なんて流さずに千石は殆ど空っぽのジュースを啜った。
ああ、でも気持ちはわかる。
諦めたくなるよ、そりゃ。
きっとずっと千石は諦めるキッカケを待っているんだ。だから可能性を拾い続けて、たくさんの女の子達を受け止める。
でもそれってすごく虚しいね。
辛いし悲しい。
それでも選ぶのは相手の幸せで、自分の平安ではないんだ。
俺も結局同じだから気持ちはよく分かるよ。
でも俺は南の幸せじゃなくて千石の幸せを願ってる。
千石が幸せを願う南の幸せは願わない。
だから千石、
幸せを掴んじゃえよ。
俺の為に、諦めないでよ。

「それでも南が好きなんだろ?」
「……うん」
「なら、いっそ開き直って好きなままいなよ。他を選ぶのはずっっっと先で十分じゃん。」
「報われないのに?」

確かに報われないのに想い続けるのは不毛かもしれない。
でもいつかその不毛すら愛せる時がくるんじゃないか、って思うんだ。

「だって、諦められないくらい好きなんだろ!」

なら、諦める必要なんてない。

「好きでもいいんだよ、千石」

誰もそれだけは否定しないから。

「俺がいつだって、いつまでだって話を聞いてあげるCー!」

おどけて両手を広げて見せると、千石は今日初めて笑顔を俺へと向けてくれた。
やっぱり笑顔が1番好きだ。
すごくすごく可愛い。


「ありがと、ジロちゃん」


君が大好きだよ。







スーパーヒーロー
(君だけの勇者)




END
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