跡部はなんで俺よりも誕生日が早いのかな、って何となく理不尽に苛ついた。だってオカシイじゃないか、なんでもかんでも跡部の方が上なんだから歳くらい俺が上でもいいでしょ?
うん。わけの分からない理屈なのは十分承知だ。
でもあんまりに苛ついたから勢いで俺は跡部の顔を殴った。バコーンって。そしたら当然短気な跡部は怒る。だって短気だから。
ああ、でも突然殴られたら短気じゃなくても怒るのかな。そりゃそうだよね。
まあ取り合えず怒った跡部は三倍返しよろしくの勢いで俺を殴った。盛大に殴った。お陰で体が後ろに吹っ飛んで尻餅までついてしまった俺に、何のつもりだよなんて今更理由を聞いてきて、切れた咥内を舐めながら殴る前に聞けば言いのになんて文句をたれる。実際は口に出すのも怖いから思っただけですがね。
なんて小心者なんでしょう俺は。

舐めた咥内はピリッと痛んで血の味がした。
ほっぺもジンジンしてる。
だけど見上げた跡部の顔も少し腫れていたから許してやろうと思う。俺って寛大だからさ。
でもやっぱり跡部が先に歳をとることだけは許せない。どうしても許せない。やっぱり苛つく。
寛大な俺もそこは許容できない。なんで?知らないよ。
そんな事をダラダラ考えていると跡部は床に倒れている俺の前にしゃがんだ。少しだけ眉間に皺が寄せられている所から察するに、どうやら跡部は俺を心配しているようだ。
自分で殴っておきながら相変わらずだな。
そんな調子で俺より先に大人になるの?本気で?

跡部の冷たい手が俺の腫れた頬に触れた。

「相変わらず冷たいんだね」

熱くなった頬を冷やす跡部の手に自分から擦り寄って、俺が殴った跡部の頬にも触れる。俺の手はあんまり冷たくないからきっと気持ちよくはないだろうな。
なんて思っていたら案の定跡部は相変わらず子供体温だな、って言いながら苦笑した。
俺達、お互いに殴り合った後の癖に随分とほのぼのしてるなー、なんてきっかけを作った俺が思ってるんじゃ世話ないね。
ドンマイ俺。

ああ、ほんと
まだまだ俺達はこんなにも子供なのに。

どうして君は大人になるんだい?

「で、結局なんだったんだよ」
「苛ついたんだ」
「は?」
「君が俺よりも誕生日が早いことに苛ついたんだよ」

なんだそれ、って言いながら跡部は心底変な顔をした。分けわかんねぇとでも言いたいのだろう。
いいよ別に。分からないのが当然だし、俺本人だってよく分からないもん。

でもね、跡部。
一つだけ確かなのはどんなに俺が足掻いても、イライラしても、君が明日には大人になってしまうってことだよ。
本当はとっくの昔に大人だったのかもしれないけれど、その中にいた子供っぽさとか全部が明日になれば跡形もなく消されちゃうんだ。
跡部は子供じゃなくなるんだよ。わかる?わからない?
わかってよ。
俺はそれが嫌なんだ。
苛つくんだ。
恐いんだ。

うん、そうだよ。俺は怖いんだよ、君を失ってしまいそうで。
明日がきたら君がいなくなって、俺を置いてきぼりにしちゃうんじゃないかって気がするんだ。

「なんで今更そんなことで怒るんだ」

今更?そうだね。確かに今更だ。
君はずっと俺より誕生日が早かった。これからだってそれは変わらない。わかってるよそれくらい。
俺だっていままではそれを受け入れられた。これからだって受け入れられる。
でもね、明日だけは無理なんだ。

「跡部にはわからない。」
「なんで」
「君が俺よりも後に誕生日がくるなら分かるかもね。」

有り得ない事を言うな
跡部はそう言って俺の頭を叩いた。
ねぇ、君が言った有り得ないはどっち?
誕生日なのか、それとも俺の気持ちを理解することなのか、俺にはわからないよ。
お願いだから置いていかないで。俺は、
俺は君がいないとダメなんだ。

「たったの一ヶ月ちょっとじゃねぇか。」

その一ヶ月ちょっとが俺には辛いんだよ跡部。
いや、違うか。
一ヶ月ちょっとが怖いんじゃなくて明日が怖いんだ。君がいないかもしれない明日が怖い。それだけなんだね。
きっと明後日には笑って君に飛びつくことだってできる。

だけど今の子供である君が明日大人になったら俺はどうしたらいい?俺だけが子供のまま取り残されて、いなくなった君を捜すの?
そんなの嫌だよ。

「怖いんだ」
「なにが」
「君に置いていかれることが」

跡部は少し驚いた顔をして、それからすぐに苦笑を浮かべた。
バーカの言葉と一緒に抱きしめられて、香水の匂いに胸がぎゅってなる。

「俺はお前を置いていかない」
「わからないよ。だって君はもう子供ではなくなるんだ。」

社会に飲み込まれて、常識やルールに溶けていく。
子供のままでいることなんて許されない。

「それでも俺はお前を選ぶ」
「……俺は」
「お前も俺を選べ、俺から離れるな。」

俺に置いて行かれるようなヘマをするな。跡部はそう言って強く強く俺を抱きしめた。
痛いけど暖かいその抱擁はまるで願いのようで、跡部がたくさんの嘘を飲み込んだのだと理解する。
理解したうえで、背中に腕を回した。

祈るように跡部が永遠を誓うなら、俺は跡部が誓う永遠を信じて祈ろう。怖くて怖くて仕方ないけれど、跡部が俺を選んでくれると言うのなら俺も跡部を信じて選んであげないと不公平だしね。

「好き、だよ…」
「ああ」
「明日になるまで一緒にいていいかな」
「いつまでも居ればいい」
「うん」











グロウアップ
(永遠を誓う)





END
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