好きだよ。
俺がそう告げると彼はとてもとても悲しい顔をする。
いつもそうだ。
青い瞳を細くして、整った美しい顔を勿体なく感じるほど歪めて俺を見る。
その表情に切なくなって、胸が苦しくなって、泣きそうになるけど、
それでも俺は彼に好きだと言った。
いつか彼が悲しい顔をすることに諦めを感じるかもしれないし、俺の気持ちが伝わって悲しい顔になる理由がなくなるかもしれない。
だから俺は好きだと告げることをやめなかった。
だけど同時に、彼が悲しい表情をする回数も増えていた。

「ねぇ、」

理由を聞いたら答えてくれるのかな。

「なんだ?」
「……やっぱ、何でもない。」

いや、それ以前に俺には理由を聞く勇気がない。
聞けやしない。
今出来るならずっと前からそうしてた。
変われるなら変わってたさ。
変われないからこそ今がある。
こんな、どうしようもない今が。

好きだと思えば思うほど、伝えれば伝えるほど、ただただ辛くなる。
なんでこんなに辛い思いをしなくちゃならないんだろう。

「好きだよ」

ほら

「…知ってる」

まただ
また悲しそうに顔を歪める。
そろそろ彼よりも先に俺がくじけそう。
なんで、なんで君はそんな顔をするの?

「雪が降りそうだね」

彼の顔を見ていたくなくて、泣きたい思いを我慢しながら空に視線を逸らした。
今にも雪が降り出しそうな冬独特の雲は少したりとも光りを漏らすことなく蓋をしている。
なぜだかそれすらも切なく思えて、苦しさに胸が軋んだ。
ああ、俺はこんなにも君が好きなのに
君は違うんだね

「雪か…まだ降るには早いだろ」

いま、この瞬間は同じ景色を見ている。
それだけで満足するべきなのかもしれない。
彼のためにも、俺のためにも

「俺は」

「千石?」
「俺は君がいなくても泣かないよ」

後ろで足音が止まるのが聞こえた。
戸惑う彼の表情は容易に想像できるし、答えも予測できる。
彼は言うだろう。

俺も
「俺も」
泣かないって
「泣かねぇよ」

まるで抜けていたピースが嵌まるように違和感もなく彼の言葉は俺の中に収まった。
恋しい者を失う代わりにカケラが俺に帰ってきたのだろう。
俺が俺であるために欲したカケラ。

君を失えば簡単に手に入るんだね。


「泣いてくれても怒んないよ?なんて」

彼に向き直って、おどけて見せた。
平気ではない。苦しい。
だけど俺にできる事はごく僅かなんだ。
それをケチるわけにはいかないだろ?

「お前が泣いたら考えてやるよ」
「考えるだけ?それはフェアじゃないよ」

ああ、だから
お願い
そんな顔をしないで

俺が泣かない間は泣かないで
俺が笑うだけ君も笑って

悲しみを共有してくれるのなら
どうか喜びも共有して?

俺の幸せは君の幸せではないけれど、君の幸せは紛れも無く俺の幸せなんだ。
だからどうか友として応援させて。
君の未来を見守らせて。
もう二度と好きだなんて言わないから、悲しませないから、
最後にするから
笑っていてね

「好きだよ、跡部くん」
「…千石」
「君と……友達で良かった」

境界線はいつも曖昧だったけれど、もうその曖昧さに甘えたりしないよ。
俺と君は大切な友達だから。

君が悲しい顔をする理由も、俺を遠ざけない理由もわからないけれど
それでも俺は俺なりに考えるから
友達でいて。
それ以上は望まない。

「帰ろっか」
「………俺は」
「大丈夫だよ」
「なにが」
「さあ?わかんないけど、大丈夫だよ。」

意味不明
君の呟いた言葉に小さく笑った。
根拠もなく遮ってしまった君の言葉の続きを聞ける日がもしも来たのなら、その時はもう少し大人に成れていたらいいな。
そんな事を思ってもう一度空を見る。
相変わらず空には分厚い蓋がされていた。







好きとサヨナラと友達






END

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