床にほっぺをくっつけたら案外その冷たさが心地よくって、俺は床に寝転がったまま台所に立っている彼を見つめた。
スラリと長い脚に引き締まったお尻、それから綺麗に伸びた背筋を辿ってため息を一つ。
これはいったい何事だろうか。

床と同化しながらふと俺はそんな事を考えた。
考えることがヒドク億劫だけれど他にすることもないし、彼を見ていてもどうしようもないから。


確か朝起きた時はいつも通りだったのだ。
布団からでて、歯を磨いて、そんで、
何も作る気はしないけどお腹は空いたから冷蔵庫にあったヨーグルトを砂糖もかけずに食べてた。
そこまではまあまあ日常で、変化が起きたのはそのあと。
俺が腕にヨーグルトを抱えてテレビを見ながら食べてると玄関がいきなり開いて、不法侵入にしては豪快な音を立ててドアを開けるんだな、なんて思っていたら入って来たのはまさかまさかの彼だったんだ。

「……おはよう跡部くん。なんか事件でも起きたの?」
「ああ大事件だ、千石」

なんだか凄く怒ってるな、なんてノンビリ考えながら微妙な味のするヨーグルトを一口食べる。
跡部の顔が少し歪んだ。

また変なもん食ってるとか思ってんだろーなぁ、なんて表情から悟れるのも無駄に付き合いが長くなってしまった所為だろう。別にそんなの望んでなかったのにね?
変なの。

「そんで?君が俺の家まで尋ねてくるほどの大事件って?」

さて、問題はそれだ。
いつもは寄り付きたくもないと毛嫌いする跡部曰く魔窟な俺の部屋に駆け込むほどの事件だ。それはそれは凄い事件なのだろう。
俺に相談されても全く、微塵も役には立たないだろうけど、好奇心が聞いておけと騒ぐので逆らわずに聞くだけは聞いておこうかと。
ホント聞くだけですがね。

「ああ、俺はいま事件に遭遇した」
「は?いま?」
「まさしく大事件だな、これは」

なんだなんだ?
オカシクないか?
いま遭遇したってどんだけだよ。じゃあ家に乗り込んできた原因はどうしたのさ。

「お前はいつもそんなもんを食ってるのか」
「そんなもんって失礼だなぁ、君、ヨーグルトに謝ったほうがいいよ」
「質問に答えろバカ」
「………たまに食べますけどそれが何か?バカまで言われる筋合いないし」

人の質問にはまともに答えないくせに自分ばっかり強要して、その横暴さは治すべきだと思うよ。正直人間関係に多大な損害が出るだろ、それ。
まあそれを跡部の人間性として優しく受け止めてくれる人もいるみたいだけど?俺には無理ですから。

なんて、口には出せない文句をツラツラ頭の中に並べながら跡部を睨んでいたら跡部がスゴイ早さで俺の持っていたヨーグルトを奪った。なんだ?ヨーグルトに恨みでもあるのか?なんて疑いたくなる目つきでヨーグルトを睨んでいる彼はすごく変で、その変人を睨んでいる俺も変人なように思えたらか早々に睨みつけるのをやめる。
でも俺の大事な食料なんで、返してくんないかなー。無理かな、跡部だし。
一人で自問自答するのも疲れる。
答えなんて出るわけないし。

「ねぇ、俺まだ食べてるんだけど…跡部くんも食べたいの?」
「ふざけたこと吐かすな。食べるわけねぇだろ!」

ハンッ
って鼻で笑うオプション付きでバカにすんなし。イラつく。
だいたい取ってったのそっちなんだから自ら理由を説明しろってんだ。
バカはどっちだよ!
意味なくてもせめて脳内で文句言わなきゃストレスで爆発しちゃいそう。

「おい。」
「いまハラワタ煮え繰り返りそうなの。だから話し掛けないでくんない?」
「ああそうかよ。なら勝手に台所借りるからな。」

はいはい。どうぞご勝手に!って…

「は!?なんで台所?ちょちょちょ、待ってまって…「うっとおしい!付いてくんな、そこにいろ!!」

なんでそんなに怒ってんの、君。
あまりの剣幕に動けず、俺はとりあえず動くなと言われた場所に座った。
冷たいフローリングに座ったまま跡部を眺めていれば、本当に台所に向かっていって、冷蔵庫を開けたとたんろくなもんがない!って怒りだして、それでも有るものを出して何かを作りはじめた。
なんなんだろう?
何がしたいのかよく分からない。
跡部のすることって大概分からないけど、今回は特に謎だ。だって突然家に訪ねて来て、そしたら今度はご飯を作りだすんだもん。
変なの。

なんだか体に力を入れてるのも疲れてきて、床に体を投げ出した。
冷たい床が気持ちいい。

トントントンって一定音が部屋を支配してる。

「跡部くんってさ」

トントントン

「ご飯作れたんだね」

トントン…

「初めて知った」
「だろうな」
「味の保証ってあるの?」
「あんなヨーグルトが食えんだ、なんでも食えるだろ」
「ヨーグルトは美味しいもん」
「……俺の料理がヨーグルトに負けるわけねぇだろ。うっせぇから黙ってろ、お前」

意地悪、ってぼやいてから
それでも俺は大人しく黙ってあげた。
またトントントンって音だけが部屋を満たしていく。
フローリングは少しだけ暖かくなってきていて、俺は眠たくなってきた。

でも何か物足りないな、って思った瞬間
お腹が情けない音を発てて俺に主張する。
うん。確かに。
お腹が空いたね。

でももう少しだけ我慢して、彼が料理する姿をみていよう。
言われた通り大人しく。だけど嬉しさを抑えられないから鼻歌を歌って。



ご飯が届くのをまっていよう。






とある日
(お腹が空いたら君を呼ぼう)





END

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -