愛を歌うよりは恋を歌ってたいかな
だっていつでも楽でいたいじゃん

辛いのも痛いのも俺は御免だ

楽して幸せならそれが一番いい


「そんなんだからチャラいって言われるんだろ」

「跡部クンがチャラいって言うとなんか変な感じ。似合わなーい」

ふかふかのソファーに寝転がりながら俺はケタケタと声をあげて笑った。
それに対して跡部クンは特に関心をもった様子もなく、コーヒーを片手に窓際に佇んだまま外の景色を見ている。

日差しに透けた彼の髪は金色を帯びていて、俺はその様子をみるのが好きだった。きれいな彼はまるで人形みたい。
俺も色素が薄いほうだけど跡部クンは俺の比じゃないくらい髪も、瞳も、薄いきれいな色をしてる。しかも顔立ちも良いんだから非の打ち所がないってのは正に彼を言うんだろな。

「でもさ、チャラチャラしてて軽いほうが俺らしくない?」

そんな俺の下らない問い掛けにも彼は律儀に答えてくれる。そっけなくて、俺の方を見向きもしないけど一々答えてくれるところは優しいな、なんてにやけてみたり。


「らしいなんて言葉を使えるほど俺はお前をしらねぇよ」

「ふーん。ま、確かにそうかもね」

跡部クンって真面目さんだよな、なんて言っても鼻を鳴らして返されただけで特に大した反応は返ってこなかった。
期待してたわけじゃないけど、もう少し俺の言葉に関心をもってくれてもいいのに、とは思う。これが期待なのかね。

「でもさ」


俺が途切れそうになった会話を繋ぐ理由はいつだって君の気を引きたいって言う可愛い我が儘。
だからやっぱり俺はどこかで期待してるんだろう、彼が俺に構ってくれることを。

「俺は君のらしさを知ってるよ。と、いうよりは勝手に妄想してるのかな?君らしい言動とか仕種を」

ふーん?と彼は楽しげに言って俺をみた。
どうやら今の台詞は彼の意識を俺に向けるに最適だったようだ。本音だったんだけど、思わぬラッキーかな。

俺も余裕な表情を浮かべて、歩みを進めた彼を迎えいれるべくソファーに座り直す。隣には彼が座れるように場所を空けておいた。

「例えばどんな仕種が俺らしいんだ?」

にやりと口元を歪めながら俺を見る彼は心底エロくて俺好み。まさにそんな君の仕種がらしいんだよ!って言いたいけどそこは我慢して焦らすように笑って返した。
やっぱり雰囲気は大事だからね。
もっともっと近づいて、
俺に触ってよ

今すっごくイケないことをしたいんだ

「ね、跡部クンはどんなだと思う?なにが自分らしいと思う?」

挑発したくて彼のカップを持っている手を俺が指先でゆっくりと撫でてみせると彼はきれいな眉を片方だけ器用に上げて、まるでバカにするように俺を見つめた。
ように、じゃないか
完全にバカにしてる表情だ
下らないと言いたいのか、もしくは案外乗り気なのかは定かじゃないけど取り合えず相手はしてくれるらしい。
その証拠に彼はカップを手近な机に置いて俺の隣に腰掛けた。

青に至近距離で見つめられたら俺はそれだけで可笑しくなっちゃいそう。
引き寄せる色を帯びた青はまるで媚薬。

「質問に質問を返すたぁ良い度胸だな」

細い指が俺の頬を滑って顎を掬いあげる。目を合わせたらそれこそ本当に可笑しくなっちゃうような気がして、ほんの少し視線は逸らした。
美人を相手にするのは大変だ。
先にこっちのほうがノックダウンしちゃうよ。

「だって気になったから。跡部クンはどんな仕種を意識してんのかなーって」

「意識、ね」

気が抜けたような吐息と共に顎を持っていた手が離れ、俺はそれを追うように視線を彼へと戻す。彼の視線は俺に向いていないから今度は気持ちに余裕はあるけど、なんだか面白くはない。
だって見つめ合うのは辛いけど、見ていて欲しいとは思うから。せっかく俺に向いていた視線がまた余所を見てしまったなんて、悲しくてしかたがない。
綺麗な横顔を眺めるのも勿論好きだけれど、やっぱり見ているだけじゃ満足できないのは悲しきかな俺の性なんだよ。
我が儘で独占欲の強い自己中なのさ。

「ねぇ、怒ったの?」

「ちげぇよ。……考えてたんだ。」

「らしい仕種を?」

「ああ」

不安と自分を見てほしい欲求に堪えられなくて俺が声をかければ、俺を見てはくれないけれど言葉はゆっくりと返してくれた。その優しさだって君らしさなのに、それにも気づかないで本当に悩んでいる彼が可愛いい。
俺の言った言葉をどうやら彼は重く受け止めてしまったようだ。
ごめんね、困らせたくて質問したんじゃないんだよ。ただ長く会話をしたかっただけなんだ。
そんなに重たい表情をしないでまた余裕の笑みを浮かべてよ、その方が君らしいから。

「そんなに悩むことじゃないけど……そうだね、何事にも真剣なところもらしいとは思うよ」

「適当言うな」

「本当だよ!真剣なところも、優しいところも、余裕しゃくしゃくなところも、自信過剰なところも、君らしいと俺は思ってるよ。」

「随分簡単な答えだな」

「世の中そんなもんさ」

「そんなもんか?」

「うん」

言い切れば、彼が漸く俺を見た。
少しはにかんだその表情はあまり見ないレアな顔で、珍しいその仕種に俺の胸は大いに高鳴る。
らしくない顔もお似合いなのは跡部様クオリティーだろうか、なんて思ってる間も目と目は見つめ合ったままで、心臓も俺も爆発寸前まで高ぶってる。
変なの、これじゃあその場の勢いってだけじゃごまかし切れないじゃん。
遊びなら構わないし、一時の高ぶりに任せて縺れ込んじゃうのも全然OK。むしろドンとこいだけど、本気はまずいよ。
だって引き返せないじゃん。
追われるのは好きだけど追うのは嫌だ。
傷つくのは嫌



「お前は」

「なに?」

「笑ってるのがいいな。一番"らしい"」

「俺らしいってこと?」

「脳天気らしいってことだ、バーカ」


ああ、反則だよ。
そこで笑うのは絶対反則。
それに君言ってたじゃんか、俺のヘラヘラした笑い方が嫌いだって。なのにそんな言い方して、俺はなんて返せばいいの?

心臓が壊れそう。
恋ならいいよ、でも俺これじゃあ…

だって今までこんな風になったことあったか?
そうやって笑う君が
君らしさになったらいいな、って思うなんてどうかしてる。





「バカって言ったほうがバカなんだからな!」






可笑しくなったかも









君らしさ、俺らしさ

(らしく生きましょ)








END

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