晴れ渡る空の下、干からびた死体みたいにベンチで俺は死んでいた。
暑くて暑くてしかたない。

今年はなんでこんなに暑いのか、と毎年考えてることを飽きもせずに考えながら缶を開けて飲料水を喉に流し込む。
体に染み渡る冷たい液体が心地好い。

目をすがめて太陽を見つめながら早く冬になれよ、なんて恨めしく思ってみたりして、冬になったら夏になれって我が儘を言っている自分を思い出したらなんだか言った本人であるにも関わらず笑えた。
なんて我が儘なんだ
まるで彼のようじゃないか。

思い浮かんだのは唯我独尊を素でいく男。
正反対だと彼は言うけどこうやって自分と重ねてみるとそこまで大きな違いはない気がする。案外彼と俺は似てるんだ。
だから反りが合わなかったりするのさ。


ほら、よく言うじゃん

同族嫌悪って


きっとそれなんだよ、俺達。


真っ青な空を見つめながら、彼を思うと止まらない思考に呆れて目をつぶる。
俺の中はいつだって彼に占拠されている
気が合わなくても嫌いなわけじゃなくて、むしろ俺は好きだから複雑だ。

俺ばっかりが好きで、振り回されてるんだもん。不公平。

だけど彼はいつだって振り回されてるのはこっちの方だ、って眉間に皺を寄せて不機嫌な顔をする。
その不機嫌な顔をみると満足感が俺を満たすから、よく彼が嫌がることをしては彼を怒らせた。
怒っているときの彼は俺でいっぱいな筈だから、それが楽しくて止められない。

好きすぎるのも困りものだ。
いつまでたっても好きな子に悪戯をする小学生から抜けられないから。


どうしたもんかね、なんて複雑な恋心を持て余しながら閉じていた目を開けて飲料水を一気に飲みきると、重い腰を持ち上げて空き缶をごみ箱にシュートした。
見事にゴールしたのを見届けてからその足を駅の方向へと向け、俺はノンビリと足を進める。
携帯で時間を確かめれば待ち合わせの時間を少しすぎていて、また怒るであろう相手を思いながら歩調は早めず、ひたすらマイペースに足を進めた。

謝ってしまえばいつだって彼は許してくれるから

だから甘えて悪戯を繰り返すんだ

「今日は何て言い訳しようかな」












結局待ち合わせの場所についたのは集合時間を10分ほど過ぎてからだった。
案の定彼は物凄く不機嫌な表情で俺を待ち構えていて、俺が片手をあげて挨拶をすれば眼光をさらに鋭くさせて睨みつけてくる始末。なにやらいつもより不機嫌なご様子だ。
彼の不機嫌パラメーターを簡単に説明するなら、怒鳴るときよりも無言で威圧してくる時のほうがやばいって言えばいいのかな?


そんな事を考えている間も彼は俺を睨みつけたまま一言も喋らずに立ったままでいる。別に今日が特別時間に遅れたってわけでもないのに何をこんなに怒っているのか俺には皆目検討もつかない。
積もりに積もった結果だとでも言いたいのだろうか。

首を捻ってジッと見つめても彼から答えが導き出せるわけもなく、困った俺は怖いものなしとばかりにストレート直球で問い掛けることにした。
悩んだところで答えがわからないなら悩むだけ時間の無駄だし、遅れて来ておいてアレだが俺はこれでも今日のお出かけを楽しみにしていたんだ。
彼と出かけられる滅多にないチャンスを無駄にはできない。

「ねえ、跡部クンはなに怒ってるのさ」

だが質問のしかたが悪かったのか、(確実に悪かったのだろう)彼は片眉をピクリと動かしてドスの効いた低音を発した。

「なにを怒ってるか聞かないとわかんねぇのか、お前は」

周りの雑踏でも消せない耳に響く声に俺は若干逃げ腰だ。
だって謝れば許してくれるから今日もそうだと思ってたし、いままでこんなに怒った顔はみたことがないから正直本気で怖い。
俺このままじゃ息の根止められるんじゃないのか?なんて恐ろしい想像まで浮かんでくる。

「いや、あの、その、メン…ゴ?」

最後までおちゃらけてみせたのは俺の根性とプライドだ。彼を好きな気持ちが振り絞った悪あがき。

だけどそれが命取りになった。

彼は完全にブチ切れて、まさに般若という表現が相応しい表情で俺の前へと進み出ていた。
やり過ぎた
なんて後悔を今更しても遅い。

ああやばい
ぶたれる
持ち上がった彼の手をみて歯を食いしばった。ついでに目もきつくつぶって痛みに備える。
女の子にぶたれるよりも痛いのはわかりきってるけど、ぶたれ慣れてるからもしかしたら何とかなるかもとかわけわかんない思考がぐるぐると回った。でもきっと女の子にいつもぶたれてるから!なんて彼に言ったらまた一段と嫌われるんだろうな、なんて想像も浮かんでほんの少し苦しくなる。

ばかだよね
嫌われることを自分からしてるくせに嫌われたくないなんてさ
俺って実は世界で一番我が儘なのかも


なんて悶々と考えている間に痛みが襲ってくることはなく、不審に思った俺が目を開いた瞬間、肩に温もりが触れた。

「………お前は」

「あとべくん?」

ここは都会のど真ん中なんだけど、それをわかっているのだろうか。俺はもちろん分かってる。だから頭がパニックになってショート寸前だ。
だって彼が俺を抱きしめるみたいにして頭を肩に置いているんだよ?触れることすら拒絶してきた彼が自分から俺に、触れてる。
これってなんの奇跡?

「お前はそんなに俺が嫌いなのか」

顔を上げることなくボソリと呟かれた言葉を俺は頭を振って否定する。だけど彼にはみえていないから意味ないじゃないかと瞬時に気づいて、慌てながらも嫌いじゃないよと声を張り上げた。
路上の真ん中で大羞恥プレイ大会。
絶対周りの人達も対応に困ってるに違いない。

「ならなんでお前はいつも俺を怒らせんだよ。しかもわざとやってるよな。」

それは少しでも俺のことを考えてて欲しかったから。
でもそんな事言ったら彼はもう俺と一緒に居てくれないかもしれない。いままで自由奔放に振る舞ったツケが回って来ちゃったってことなのかな。

「言えないのか」

顔を上げた彼と目があって、至近距離の青に映り込む自分が随分と情けない表情をしていることに気づいた。俺ってばゾッコンだなぁ
嫌われる、って思っただけでこんな表情ができるんだもんね。

「俺は…ただ君が好きだっただけだよ」

一度言葉を口にしてしまえばまるでダムが崩壊したように次から次へと言葉が溢れてきた。
いままで言えなかったことを全部言って終わりにしようとしているみたいに。

「好きだから、俺のことを少しでも考えてほしくて。だから悪戯して君が俺をみるように、って
俺のことを考えるように、って」

ただただ必死だっただけ
本当の恋ってやつに振り回されちゃっただけ
笑っちゃうくらい俺のなかを君が独占してたのが悔しかっただけ

ただそれだけ


「ごめん………困らせて、ごめんね」

路上の皆さんもごめんなさい。白昼堂々とわけわかんない告白しちゃった俺はもうこの付近には来ないからどうか許して。
そんでもって言い触らさないでね。
彼をこれ以上困らせたくないから。

「なにがごめんだ」

「うん…ごめんね」

「いつもそれくらい素直に言えねぇのかよ」

「ごめん」

「…もういい。お互い様だ」

「え?なにが?」

嫌われた
その事実に謝りながらも泣きそうで、情けなさに押し潰されそうになっていると彼がさよならじゃなく、自分も悪かったとでもいうような言葉を発したので思わずまじまじと顔を覗き込んでしまった。
そうすると気まずい表情で前髪をもちあげながら彼は言葉を続けた。

「俺も素直に言えなかったからお互い様だ、って言ってんだよ。」

「なにを?」

やっぱり言ってる意味がわからなくて彼を見つめながら首を傾げる。
つまり何が言いたいのだろうか。俺を許してくれるってことなのか?

そんな風にまた一人で悶々と考えていると彼の細い指先が俺に触れて、視線を慌てて彼に向ければ彼の顔はなんとも至近距離にあった。

ドカン
と一発

絶対完璧心臓爆発

だって彼と俺の唇が触れたんだ
ほんの一瞬だったけど間違いなく触れた
大勢の証人つきで


「俺も好きだ、千石」


「えっと、あ……の…」

頭がくるくるくるくる回ってる
ただ取り合えず言っておこう


「よ、よろしくお願いします」


これからずっと

できれば末永く、



愛してください












街中LOVESTORY

(幸せにするから)






END

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