綺麗な人だから触れるのが怖かった
俺が触ったら汚れちゃうんじゃないか、とか
壊れちゃうんじゃないか、とか
そんなことを考えては怖くなって、
その度に近づかないようにしようと思って、
そしたらなぜかその人から俺に近づいてきて笑ってくれた
優しい手で俺の頭をくしゃくしゃにするまで撫でて、汚れるどころか直視できないくらいに輝いてて、
もっともっと
好きになっていた
summermagic
暑い
夏の日差しは本当に人を殺すな、と納得してしまうほど暑い。
しかも今日は例年でも稀な暑さだそうで、その情報を聞いただけでも気が滅入っていたのに直に体験しなければならないのだから嫌にもなる。
いっそこのまま溶けてしまいたい
むしろ溶ける
そんなことを思いながらベンチに座り込んで、背もたれに背中を預けた。
溶けるどころか日干しで干からびるかも、なんて冗談にもならない冗談を呟いて滝のような汗を拭う。
暑い暑い暑い暑い暑い
「こら、なにしとんねん。堂々とサボりか」
あつい…
「サボりやなくて休憩っす…熱中症で死んでまいますよ……」
背もたれの方から太陽を隠すように覗きこんできた綺麗な顔に、俺は笑みのようなそうでないような出来損ないの表情で返して手をヒラヒラと振る。
暑さで脳は完全にイカレてる。
「……しゃーないな、まだ休憩には早いんやけど許したる。倒れたら大変やから特別やで。」
ふぅ、と一つため息をついてそう言った部長に俺はおおきに、とお礼を言って顔を直視しないように腕で日よけをするフリして視界を塞いだ。
体外温度がただでさえ高いのに体内温度まで上げられたらたまったものじゃない。
それこそ本気で死んでしまう。
「具合悪いんか?水、飲んだほうがええんとちゃう?」
「平気っす……ただ暑いな、っておもただけなんで」
しかし部長はそんな俺の行動を不信に思ったのか妙に熱い手で俺の腕を掴んで避けた。
目の前には汗がキラキラと輝く美しい人がいて、しかも腕にはその人の手が触れているなんて!
俺はこのまま死んでも悔いはないと思う。
暑いどころじゃない
溶ける
どろどろに溶けて、蒸発して、なくなってしまう
「ほんまに大丈夫なんやろなぁ?」
うたぐり深く俺の顔を覗き込んでくる部長の顔はなんだか距離が近くて、溶けた脳みそが沸騰してる。俺が動けば触れそうな距離は心臓に悪いを大幅に通り越して変な気持ちを掻き立てた。
暑さが背を押すように理性を奪うから、俺には抵抗する余力がなかったんだ、と言い訳が許されるのなら言いたい。
「………ざい、ぜ…ん?」
ああ、驚いた顔も綺麗
この人は全てが綺麗だ。
「いまの……なんやねん」
「キスです」
「そ、そんなん知っとるわ!!」
一気に顔を真っ赤に染め上げて必死な表情で俺から離れようとした腕を俺は衝動のまま掴んだ。
まるでさっきの反対。
しかも俺から部長に触れたのは初めてじゃないだろうか。暑さってすごいな。
そんな事を思いながらいまだにベンチに座ったまま、上から俺を見下ろす顔を見上げる。
今度はキスできる距離じゃないけどこの位置から覗く表情は最高だな、なんて。さっきから不謹慎というか、何と言うか、変なことばかり考えている。
「……なんで、したん」
「…暑さのせいっすわ」
この答え方は零点だ。
でもどんなに脳みそが溶けても告白なんかできない。キスしておいてなんだそれ、だが俺にとって告白は冗談になんてできないからどうしようもない。
「ふぅん。暑さのせい…か」
何となく不機嫌そうに部長はそう呟いた。
まあ不機嫌になって当然のことを俺は言ったんだからしょうがないだろうな。
なんて思っていた矢先、部長の顔が近づいてた。
あつい
俺はこの熱くて、柔らかい感触を知ってる
「………部長?」
「暑いから、頭沸いたんや」
「もう一回……」
「調子のんなやアホ」
なんか、暑いのもいいかもしれない。
そう思った中二の夏
summermagic
(これが始まり)
END
リクエストありがとうございました!
光蔵で甘甘とのリクエストですが、甘甘……ですかね?
結構指定がないのをいいことに自由な感じで書いてしまった結果、まず付き合っていないという問題まで発生してしまい、書き上げたのはいいけどこれは甘いのか?と書いた本人が迷うという……
こんな感じですが、気に入って貰えると飛んで喜びます
ではではリクエストとお祝いのお言葉ありがとうございました!
麻生マテリ