ダメだな、って思った。
好きすぎて
好きすぎて、
君がいないとダメなんだろうな、って

だって触れ合う温もりが愛しくて恋しくてもっと欲しくなっては貪るみたいに抱き合って、
その刺激や温もりがなくなったら生きていけないに違いない

そんな自覚もあるんだ

好きでいることは常に正しいわけじゃない
愛し合うことは常に生産的なわけじゃない

俺達は正しくないし、非生産的だ

それでも一端に愛しあって求めあって依存しあう

だからダメになるわけじゃないけど、俺達の場合は好きすぎてダメなんだ
お互いを愛しているからこそ

失うことに臆病になってしまう

「跡部くん。俺、君がいなくなる夢をみたよ?」

薄明かりが窓から差し込む中、俺は高い天井を見つめて跡部に語りかけた。跡部は俺に背を向けたままピクリとも動かないからまだ寝ているのかもしれない。
でもそんなことで俺は喋るのをやめたりしない。
だって独り言は得意だし、何より言いたい時に言いたいことを言うのが俺のアイデンティティーだから。

聞いてなくていい、

聞いてなければいい、

聞かないで、

俺は臆病な人間だから

「いなくなるって言っても別に消えちゃうとかじゃなくてさ、別れたんだよ…俺達」

それはそれは静かに、
ただ手を離すだけだったけど明確な別れの意味をもった動きで絡み合った指先が離れた。
さよならの苦味が胸を締め付けて、肺を叩いて、喉を裂く。
愛おしさが憎らしさに変わる瞬間ってなんなのかがよくわかった。

「別れってさ、死と同意義なんだね。相手に殺されちゃうから人は愛情から殺意や怨みを生むんだよ。」

だけど俺は全部全部隠して消した。
俺に殺意や憎悪は重たすぎたから、背負うには俺はあまりに弱すぎたから、隠して消して、さよならって笑ってみせた。

そうすることで全てと決別した気になって、納得したフリをしてしまえば自分の気持ちもなんとか整理できたし、何より傷ついたことを忘れられる。
俺は卑怯だ。
逃げてしまえばなかったことにできると思ってる臆病な卑怯者。だから今回だって全部忘れたくて独りよがりに喋って喋ってなかったことにしようとしてる。
いつだって逃げることに必死なんだよ。
怖くて、壊れそうで、動かない背中を見つめながら指先で薄く白い肌に触れた。
温かいような冷たいような不思議な体温を感じながら深呼吸をして、目をつぶってみた。今度は悪い夢を見ずに済みそうな気がして、温もりに寄り添いながらもう一度眠りにつく。

幸せになりたい


君と二人、ただ幸せに





「バカな奴」

寝息が聞こえ始めたのを確認して、俺は体の向きを変えた。背中に寄り添うようにして寝ていた千石を見つめ、頬をうっすら流れている涙を拭ってやる。

『君がいなくなる夢をみた』

その言葉を俺は聞こえていながらも無視した。
理由はそうすることを望まれている気がしたのと、答えてしまうことが怖かったから。

自覚してはいけない事のような気がしたんだ。
分かっていても知らないフリをし続けなければならない事。それはこの世にたくさん転がっている。
千石の場合は自覚を持っているから、俺が頷いてしまえば全て終わってしまう。どちらも望んでいなくたって、それが相手の幸せなんだと勝手に決め付けて終わらせるに違いない。
俺もそうだ。

いざその時がきたら千石の幸せのためだとか言って責任から逃げるのだろう。


隣で眠る千石の髪を撫でて、俺はその体を強く抱きしめた。
少し身じろいだものの、千石が起きる気配はない。ただ腕のなかで温もりが優しい顔で眠っている。

「もう、そんな夢を見るなよ。」

温もりを抱きしめたまま、耳元にそう呟いて俺も目を閉じた。
離したりなんてしないように強く強く抱きしめて、永遠を誓うように優しくくちづける。


今度は幸せな夢を二人でみよう。













現実主義者の夢見事
(永遠がないことを君は知ってる)






END



どうも、リクエストありがとうございました!
え〜っと、甘甘だけどシリアスな跡千で、千石さんが一方的に別れようとしている話。とのリクエストだったのですが…

甘甘なシリアスという新ジャンルに悪戦苦闘した結果こんな感じに仕上がりました!
しかも千石さんがあんまり別れようとしてない感じですいません。

力量不足でした…


愛は込めて書きましたので受けとっていただけると嬉しいです!

それでは、リクエストとお祝いの言葉をありがとうございました!
これからもよろしくお願いします。
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